2022 Fiscal Year Annual Research Report
How do plants adjust their photosynthesis in response to fluctuating light environments in future climate
Project/Area Number |
21H02171
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
矢守 航 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (90638363)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 光合成 / 光阻害 / 光合成誘導 / 変動光 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の環境応答を詳細に解析するため、これまでに多くの研究が実験室内で行われてきた。しかし、植物の本来の生育場所は実験室ではなく、複雑に光強度が変動する野外環境である。また、太陽光には、光合成有効放射と呼ばれる400~700nmの波長域の光に加え、単独では光合成を駆動しない700~800 nmの遠赤色光(以降、FR光と記す)も豊富に含まれる。したがって、野外の変動環境に対する植物の光合成応答を解明することは重要である。近年、当研究室の研究成果によって、短期的な変動光に対してFR光を補光することによって、光合成が増大すること、および、PSIの光阻害が緩和されることが明らかになってきた。しかしながら、これらの先行研究は、林床のようにFR比が比較的高い環境を模倣したものであり、作物栽培に利用される圃場環境での影響は未解明のままである。また数日以上の長期的な変動光への遠赤色光補光が植物の光合成に及ぼす影響については不明瞭な点が多い。光合成を駆動しないFR光による光合成調節機構の解明は、野外環境における作物栽培において重要な研究課題である。そこで本研究では、裸地でみられる変動光とFR光を模倣した光環境を再現し、短・長期的に植物に光処理した際の光合成応答および成長に与える影響を明らかにすることを目的とした。 短期的な変動光処理に対してFR補光が光合成に及ぼす影響を調べたところ、裸地環境で見られる短期的な変動光に対してFR光を補光することによって、光合成電子伝達活性に大きな影響は見られなかった。一方で、長期的な変動光処理に対してFR補光が植物成長量に及ぼす影響を調べたところ、全ての光処理区において、FR補光によって植物成長量が増加した。さらに、FR補光によって弱光から強光条件に移した際の光化学系II電子伝達速度が上昇し、熱放散(NPQ)が減少することを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた実験がおおむね遂行できている。論文化も順調である。
|
Strategy for Future Research Activity |
シロイヌナズナの変異体を使用して、現在と近未来に予想される環境において、光合成の変動光応答に関与する新規遺伝子の探索を行う。すでに複数の候補遺伝子が明らかになりつつある。スクリーニングと平行して、変動光環境に対する時間差トランスクリプトーム解析を行う予定である。 また、気孔開閉を迅速化したイネPatrol遺伝子に着目した研究を展開する。PATROLは気孔開閉に重要なH+-ATPaseの細胞膜への移動を制御しているタンパク質であり、シロイヌナズナのPatrol過剰発現体では、変動する光環境下において光合成誘導反応が促進され、植物成長が増加することを示してした。これらの結果は、PATROLが光環境に応じて俊敏に気孔を開閉する因子である可能性を示す。そこで本課題では、Patrol過剰発現体イネとシロイヌナズナを材料とし、高CO2環境において、気孔改変による光合成誘導反応の促進と変動光環境下の物質生産能力を解析する。
|