2021 Fiscal Year Annual Research Report
Clarification of the mechanism on watercourse development in apple fruits related to dynamics of water and sorbitol metabolism
Project/Area Number |
21H02180
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 卓 北海道大学, 農学研究院, 教授 (30196836)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
春日 純 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (40451421)
実山 豊 北海道大学, 農学研究院, 講師 (90322841)
上野 敬司 酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (90441964)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | リンゴ / みつ症果 / ソルビトール / スクロース / 13C / MALDI-TOF MS imaging / マルチ / 針金リング |
Outline of Annual Research Achievements |
1)圃場試験:みつ症果を発生する‘こうとく’および‘Red Gold(RG)’の成木(北大余市果樹園栽植)で、全面マルチおよび主枝に施した針金リング処理がみつ症果発生に及ぼす影響を調べた。みつ症の発生程度は、経時的に採取した果実(5果)の縦および横断面をwin-RHIZOで画像解析する方法により評価した。みつ症程度は両品種とも収穫直前の果実で顕著で、‘RG’の針金リング区は、対照区に比べて有意にみつ組織の面積が拡大した。 2)維管束組織の微細構造:みつ症果の発生に顕著な品種間差が認められており、果梗部から果実に至る維管束組織の構造的差異が、篩部液の果実内流入を制限している可能性があるため、果梗部を化学固定後パラフィン包埋し、横断切片を顕微鏡観察した。その結果、果梗部は、枝と同様にその中心を木部が大きく占め、篩部組織はその周辺を覆うように発達している様子が確認できた。 3)MALDI-TOF MS imaging:7月下旬に採取した‘こうとく’の未成熟果を表面殺菌後、無菌条件下で縦および横に切断し、その切断面を0.5Mの[1-13C]sorbitolを添加したMS培地で72時間培養し、MALDI-TOF MS imagingによる観察を行った。リンゴ果肉組織内で外与の[1-13C]sorbitolを基質として合成されたsucrose(通常のsucroseよりもm/zが1または2大きい分子)の果実内分布を観察したところ、[1-13C]を内包するsucrose濃度は果実中心部で低く、果肉の果皮側で高いことがわかった。 4)Sorbitolおよびsucrose代謝関連酵素遺伝子の解析:果肉組織から採取されたRNAの量および純度が低く、解析が容易ではないことがわかった。果肉細胞は大きく、核酸抽出には不向きな材料であるため、酵素活性に着目して研究を進める方が得策であると判断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
圃場試験では、初年度にもかかわらず、針金リング処理がみつ組織の発生を増大させ、マルチによる灌水制限がみつ症の発生を減少させる可能性を見出すことができた。また、みつ症組織の発生程度を、win-RHIZOによる画像解析を用いて客観的に捉える技術開発にも成功した。MALDI-TOF MS imagingでは、[1-13C]sorbitolを基質として果肉組織内で合成されたsucroseの果肉組織内分布を可視化することに成功し、sorbitolを基質としたsucrose合成活性は、果芯部よりも果托の皮層部側で高いことを明らかにできた。この方法を利用すれば、みつ症果発生における品種間差をsorbitol代謝能の側面から研究することが可能になるものと考えられる。また、果梗部の顕微鏡観察により組織の構造的特徴が明らかになったことから、みつ症果発生の品種間差と連動した構造的差異の比較検証が可能になった。一方、プレッシャーチャンバーを使った人工的みつ症果作出実験は、みつ症果発生動態の調査と実施時期が被ってしまい、十分な実験を実施するには至らなかった。また、RNA抽出も予定どおりにはうまくいかず、酵素活性に焦点を絞った研究へシフトする必要が生じた。これらのことから、全体を通してみると、研究は概ね順調に進行しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1)圃場試験:マルチ処理は、両品種でみつ組織がやや小さくなる傾向を示したが、対照区との間に有意差は認められなかった。その原因として、マルチ下20cmの土壌水分は否マルチ下のそれよりも有意に減少したが、地下50cmにおいて両者に差は認めらず、根系全体としてマルチの効果が小さかったことが考えられる。2022年度は、前年度の結果を踏まえ同様の実験を実施し、年時間比較を行う予定である。 2)維管束組織の微細構造:師部組織内には明瞭な(分化・発達した)維管束構造は確認できず、小さな細胞から成る塊状の組織が分散して確認できたので、これらの構造にみつ症果発生の品種間差と連動する構造的差異が存在するか、現在詳しく検証を行う予定である。 3)MALDI-TOF MS imaging:[1-13C]sorbitolから合成されたsucroseを可視化できたことから、[1-13C]sorbitolに各種植物ホルモンを併せて処理し、sorbitolからのsucrose合成に及ぼす植物ホルモン(特に、zeatin)の影響を可視化する実験を行う。 4)Sorbitolおよびsucrose代謝関連酵素活性の解析:これらの関連酵素活性をみつ症果発生と連動した品種間で比較するとともに、酵素活性に及ぼすzeatinの影響について検証する。 5)プレッシャーチャンバーを使った人工的みつ症果作出:切り花染色剤にsorbitolを加えた擬似篩部液(樹液)を果梗部から流入させ、人工的なみつ組織の作出を試みる。併せて、果梗部から花芯部に至る組織の染色状況を顕微鏡観察する。
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