2022 Fiscal Year Annual Research Report
Threat to the survival of mangrove driven by the global warming
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21H02236
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
宮沢 良行 九州大学, キャンパス計画室, 学術推進専門員 (80467943)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 信 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (10396608)
井上 智美 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物多様性領域, 主幹研究員 (80435578)
種子田 春彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90403112)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 蒸散 / 陰圧 / 潮位 / マングローブ / 自動観測システム |
Outline of Annual Research Achievements |
当初設定した、異なる塩分環境および水面高環境にある調査地にセンサーを設置するとともに、定期的な観測を通じて、マングローブの水利用の実態を明らかにした。マングローブは、吸い上げに強い陰圧を必要とする塩水を水源とするものの、日中の大気環境に応じて柔軟に蒸散速度を変化させることが明らかになり、既存研究で議論されたような陰圧起因の通水器官の損傷や、損傷回避のための光合成抑制を行わないことが明らかとなった。日中で最も強化される時間であっても、マングローブの樹体に加わる陰圧はマングローブの限界値よりも低いことが明らかとなり、高い陰圧を発生させて不自由なく水の吸い上げを行えている実態が明らかとなった。この結果は、今後の温暖化により大気がより乾燥したとしても、マングローブは蒸散速度の上昇に対応することが可能であり、陰圧強化の回避を目的とした蒸散や光合成の抑制は限定的になるという結論を示唆している。ただ機器の故障が頻発したことから、年内で最も高くなると考えられる真夏の蒸散の計測は限定的であり、この結論は完全には支持されていない。また塩分濃度が最も高い、マングローブの海側の分布際での観測は、機器故障により限られた日数でしか計測が行えなかった。ここでの観測値では、日中の乾燥に伴う蒸散の抑制は観測されていないものの、晴天の日中であっても蒸散速度が日によって変動する結果が得られている。塩濃度の高い地点に生育することから、樹体にかかる陰圧も高く、潮位や塩濃度の変化次第では、吸水あるいは葉の生理特性が影響を受け、水を吸い上げられない事態が発生しているのかもしれないが、その判明にはさらなる観測データが必要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
蒸散のための水の吸い上げに強い樹体内陰圧を必要とする汽水・海水域に生育する日本在来のマングローブが、真夏の高温化で強化される陰圧による損傷や、損傷回避のための蒸散抑制を行うのか、という本課題の大きな疑問について進展があった。マングローブ群落の中心部では、この地域の陸上他種では見られないほどの強い陰圧が観測されたものの、陰圧への強い耐性をもつことで損傷を回避し、日中の乾燥状態でも高い蒸散速度およびそれに必要な陰圧を発生させている実態が明らかになった。限られた種での計測結果ではあるものの、従来報告のあった、マングローブは大気の乾燥が強化される日中には蒸散を取りやめるという報告が、計測の人為的影響を強く受けていることを示唆し、生育条件下のマングローブの挙動を解明した貴重な知見を得られた。だがより塩分濃度との高い地点に生息する他種の挙動については、より強力な陰圧の発生や大気乾燥以外に起因する蒸散の抑制が観測されたものの、機器故障により限られた期間のデータしか収拾することができず、観測された現象の詳細を解明することができていない。こうした種では、温暖化に伴う成長の抑制や枝葉あるいは個体や群落レベルでの枯死が発生する可能性もある。在来のマングローブでの温暖化に伴う枯死の危険を評価する上で、こうした種の知見は不可欠であり、さらなるデータの収集が必要とされている。
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Strategy for Future Research Activity |
調査地のうち、海沿いのマングローブ分布域の際に設置した調査地での観測を実施する。故障したセンサーについては昨年度に新規センサーを設置しており、知見が必要とされている真夏の待機乾燥下での蒸散の実態を解明するための準備は整っている。また付近の気象データについても、これまで取られてきた大気環境のデータに加え、吸水域である海面について、水位高や塩分濃度のセンサー、また乾燥下で葉の陰圧を軽減する可能性のある葉面水の状態の指標である葉面濡れセンサーを設置する。また春先に一度しか観測できていない、この地点の葉の陰圧および陰圧への体制について、陰圧が最も強まる真夏のデータの収集を行う。これまでの観測で十分にデータが集まっておらず、また温暖化に伴う大気乾燥が蒸散や陰圧による樹体への損傷など、影響が最も顕著になると考えられるこの地点での観測を行うことで、日本に生きるマングローブの温暖化による枯死リスクの評価を行う。
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Research Products
(4 results)