2021 Fiscal Year Annual Research Report
新規さし木手法がもたらすさし木発根誘導シグナルの特定
Project/Area Number |
21H02237
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
渡辺 敦史 九州大学, 農学研究院, 教授 (10360471)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
栗田 学 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 主任研究員 等 (40370829)
福田 有樹 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 研究員 (50781621)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 不定根形成 / シグナル / オーキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで不定根形成開始シグナルの中でも傷害応答が重要と考えられてきた。しかし、新規さし木手法である通称「エア挿し」では、傷害応答とは直接的に関係ない箇所からも不定根形成が生じることが明らかとなっている。そこで、2021年度は傷害応答と密接な関係にあるエチレン受容体遺伝子の発現応答から傷害応答と不定根形成の関係を分析した結果、傷害部位から離れるに従ってエチレン受容体遺伝子の発現応答は弱くなる傾向にあり、傷害以外の何らかのシグナルが不定根形成開始に関与する可能性が示唆された。オーキシン受容体遺伝子についても合わせて評価した結果、オーキシン受容体遺伝子は傷害形成後徐々に発現が上昇する傾向にあり、むしろオーキシンの誘導が不定根形成と関係する可能性が高いことが示唆された。オーキシンと不定根形成との関係性をより明確にするため、遮光率を変化させた試験区において、不定根形成が高い試験区と低い試験区があったことから、それぞれから時系列に応じてサンプリングを開始した。さらに、オーキシン受容体遺伝子をスギで明確にするための遺伝子配列情報の整理およびエア挿し試験区における網羅的遺伝子情報収集を行なった。遮光率を変化させた試験区については、より不定根形成が容易な「春挿し」でも継続して行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの知見では傷害によるシグナルの一つに植物ホルモンの一種であるエチレンの関与が考えられてきたが、スギではエチレン受容体遺伝子の発現応答は傷害部位から離れるに従って低下することが明らかとなり、エア挿しにおけるランダムな不定根形成誘導は傷害とは異なる要因である可能性が示唆されている。さらに、当初予定のスギ不定根形成における物理的環境については概ね理解するに至っている。物理環境のうち、特に遮光率を変化させた試験区において、より遮光率が高い場合には不定根形成が低下することが明らかとなった。エチレンの関与が低い可能性があることや遮光率が高い場合には不定根形成が低下することなどの知見は、植物ホルモンの一種であるオーキシンがスギ不定根形成の中心であることを示しており、今後はオーキシンの動態に焦点を当てた研究が必要であることが明確となっている。現在は、オーキシンの関与を明確にするための遺伝子レベルでの実験を進めるとともに、不定根誘導開始シグナルの特定に向けたさまざまな処理をしたさし木を行なっており、現時点で計画の遅れはないと考えていることによる。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で進捗に遅れはなく、今後は当初に行なった仮説を明確にすることが目的となる。そのためには、最も強く関与する要因の特定が必要であり、これまで考えられてきたオーキシンの役割を一層理解する必要性がある。特に、外在性オーキシンは少なくともスギ不定根形成にはほとんど関与していないことが示唆されており、内在性オーキシンの挙動と関係するシグナルの特定を行う予定である。これまで収集してきた遺伝子に加え、さらにさまざまな処理区における遺伝子情報も集積しており、データベース化できれば、内在性オーキシンを理解する上で強くサポートするデータになりうる上に、内在性オーキシンを理解するための様々な試験区が設定されている。
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