2021 Fiscal Year Annual Research Report
Elucidation of microflora associated with fruits and vegetables during postharvest stage and its application for quality evaluation
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21H02320
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
濱中 大介 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 准教授 (60399095)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 収穫後農産物 / 微生物叢 / 品質評価 / 安全性 / 多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
青果物に存在している微生物の16S rRNA遺伝子アンプリコン解析による細菌叢の網羅的把握では、これまでの平板培養法によって取得した一つ一つのコロニーからDNAを抽出し、PCRとサイクルシークエンス処理後、相同性判定によって属種同定される細菌だけではなく、難培養種を含む様々な細菌が数多く存在していることを確認することができた。 カットレタスを用いた保存試験においては、腐敗が進行することで同処理サンプル間の細菌群集傾向が異なっていたことから、腐敗は一つの微生物よりもむしろ様々な微生物の作用が影響している可能性が示唆された.保存日数の経過にともない、カットレタス付着細菌の表面付着能は低下したが、黄色ブドウ球菌を接触させたサンプルには変化が見られなかったことから、本菌の汚染によってバイオフィルム形成量が増加もしくは構造が強固となり、内部で培養できない細菌が他の処理区よりも多く存在している可能性が示唆された。このことから、カット野菜製造上における取り扱いが細菌叢に影響を及ぼし、その後の保存性や安全性に影響している可能性がある。また、保存温度が10℃以下の低温で維持していた場合と比較して、温度が変動していたとしても、一般生菌数への影響は認められなかったが、アンプリコン解析によって、細菌叢は大きく変化していることが確認できた。これらを主成分分析あるいは主座標分析を行ったところ、保存環境の違いによって異なるクラスターを形成することが明らかとなった。これらの農産物サンプルは、見た目の違いは認められないため、鮮度や保存性、安全性について、優占種を標的として評価できる可能性が認められた。一方、細菌叢のデータと品質や生理活性との相関性を検証したものの、現状では有意な相関は認められなかった。今後は、排出されるガス、さらには微生物の代謝産物について、質量分析を含めた詳細な解析を行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度では、カットレタスを用いて保存中の微生物叢解析ならびに品質評価を行い、温度変化や病原微生物の接触、殺菌剤を用いた処理といった、一般的なカット野菜の製造と流通、販売において遭遇が想定される条件を研究室で再現し、本課題で想定した仮説を検証することができた。また、保存方法や周辺ストレスの影響だけでなく、野菜の生育度や熟度の違いも存在する細菌叢に影響を及ぼしている可能性を見出すことができ、この内容については当初の計画以上に進展していると評価できる。一方で、保存中に産生される代謝物質の定性的・定量的な評価については、分析手法を模索中であったため、この部分については、やや遅れていると評価する。懸案の内容については、質量分析の他、分光学的手法を用いることで、これらの解析・解決ができると考えられるため、次年度は早期に十分なデータを蓄積しなければならない。一部果実については、細胞壁への影響を検証するため、ポリガラクツロン酸分解酵素をターゲットとして関連遺伝子の発現解析を実施した。保存条件の違いによって、存在する細菌叢と遺伝子発現との関係を見出すまでには至らなかったが、発現そのものが変動すること、また、酵素活性そのものに影響を及ぼすことも確認はできており、この部分においてはおおむね順調な進捗であると考えている。得られた成果の一部は、関連する学会や論文発表の準備ができていること、また、次年度に向けて、さらに様々な農産物を用いて比較検証することに加えて、顕微鏡や分光学的手法による評価の体制は既に整えていることを考慮して、現在までの進捗としては概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、いくつかの保存条件や、殺菌後農産物に含まれる微生物叢について、これまでの評価で用いられてきた培地培養での属種同定や、単離微生物の16S rDNA領域の相同性評価で得られる結果において見落とされてきた細菌を含む、微生物叢の全体像について評価できる可能性を見出した。2022年度は、引き続き収穫後農産物の保存・流通中における微生物叢の変化についてデータを蓄積することに加え、各種のストレス環境下での評価を行う。例えば紫外線や赤外線といった電磁波や、電場環境を利用することで、微生物叢の変化を意図的な制御の可能性を検討する。またそのような状態において生じる揮発性物質や代謝産物について、質量分析とともに、分光学的手法による測定で、定量的・定性的評価を試みる。引き続き、アスコルビン酸やポリフェノールをはじめとした栄養品質の評価、ならびに呼吸やエチレン排出による生理学的な評価も行う。2021年度は、農産物細胞の構造的な特徴の変化を把握するために、ペクチン分解に関連する酵素であるポリガラクツロナーゼとその律速遺伝子の発現解析を行ったが、その範囲を広げてデータを蓄積する。具体的には、過酸化ストレスや細胞膜の水分透過機構にも影響を及ぼしていると考えられるため、ペルオキシダーゼやアクアポリンに関連する遺伝子群をターゲットとして評価する計画である。
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