2022 Fiscal Year Annual Research Report
investigation of determinants for virus replication toward vaccine development against porcine reproductive and respiratory syndrome
Project/Area Number |
21H02364
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
小澤 真 鹿児島大学, 農水産獣医学域獣医学系, 准教授 (50568722)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 豚繁殖・呼吸障害症候群 / ウイルス増殖 / ワクチン / 干渉現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)は、30年以上に渡って国内外の養豚業界に甚大な経済的被害をもたらしてきたウイルス感染症だが、いまだ効果的な対策が確立されていない。作用機序が不明なまま使用されている弱毒生ワクチンが一定の効果を示しているが、その活用方法や評価基準は免疫学の一般常識と馴染まない部分が多い。本研究課題は、PRRSウイルスの分子生物学的な基礎研究に取り組み、ウイルス学的な特性に関する新たな知見を得ることで、より効果的なPRRS対策を提示することを目的とし、当該ワクチンが「PRRSウイルスが細胞レベルの干渉現象を引き起こすことで作用する」という仮説を立て、その検証と分子基盤の解明に取り組んでいる。 干渉現象の検証には、異なるウイルス株を培養細胞へ重感染させる必要がある。しかし予備実験において、細胞のPRRSウイルスに対する感受性は細胞周期に依存し、重感染実験の障害となる可能性が示された。そこで、細胞周期がPRRSウイルスに対する感受性に与える影響を検証するため、培養細胞の細胞周期を同調させた上でPRRSウイルスを接種し、感染細胞の割合を計測・比較した結果、細胞のPRRSウイルスに対する感受性が細胞周期によって大きく変化した。 上記の実験過程において、PRRSウイルスが培養細胞に持続感染する可能性が確認された。そこでPRRSウイルス4株を用い、各ウイルス株の持続感染細胞株を樹立した。これらの持続感染細胞株は、接種ウイルス株の種類を問わず、培養上清中に高力価の感染性ウイルスを産生しながら増殖した。さらに、これらの持続感染細胞株へ、同種または異種のPRRSウイルス株を重感染させたところ、いずれの細胞株も細胞変性効果を示すことなく増殖し続けた。これらの結果は「PRRSウイルスが細胞レベルの干渉現象を引き起こす」ことを示唆しており、本研究課題の作業仮説の立証に近づいた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PRRSウイルスの感染標的細胞であるブタ肺胞マクロファージを不死化したPAM-T43細胞(PRRSウイルスに対する高い感受性を確認済み)をモデル細胞として、細胞周期がPRRSウイルスに対する感受性に与える影響を検証した。当該細胞を、特定の細胞周期における同調培養薬剤14種類で前処理した上で、PRRSウイルスを接種し、ウイルス感染細胞の割合を計測・比較した。その結果、細胞周期をG2期で停止させる薬剤を処理した細胞において、PRRSウイルス感染に対する感受性の優位な低下が見られた。これらの結果から、ブタ肺胞マクロファージのPRRSウイルスに対する感受性が細胞周期によって大きく変化することが示された。 一方上記の実験過程において、PRRSウイルスがブタ肺胞マクロファージ不死化培養細胞に持続感染し、細胞周期の同調等に配慮しなくても適切な重感染実験を実施できる可能性が確認された。そこで、4種類のPRRSウイルス株(2種類のワクチン株ならびに2種類の野外株)を用いて、各ウイルス株の持続感染細胞株の樹立を試みた。その結果、試験したすべてのPRRSウイルス株が感染細胞で顕著な細胞変性効果を示した一方、接種したウイルス株の種類に依らず一部の感染細胞は必ず生残・増殖し、その培養上清中に抗力価の感染性ウイルスを産生することが分かった。したがってPRRSウイルスは、ブタ肺胞マクロファージに持続感染する性質を普遍的に備えており、この持続感染細胞を用いれば重感染実験を効率的に実施できることが示唆された。 そこで、樹立した各持続感染細胞株へ、同種または異種のPRRSウイルス株を重感染させたところ、いずれの細胞株も細胞変性効果を示すことなく増殖し続けた。これらの結果は「PRRSウイルスが細胞レベルの干渉現象を引き起こす」ことを示唆している。したがって本研究課題は、おおむね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
PRRSウイルスの細胞レベルの持続感染は、過去に論文等の報告はなく、また本研究課題の計画段階においても想定していなかったことから、ウイルス学的意義の大きな新知見と言える。また、PRRSウイルス持続感染ブタ肺胞マクロファージ不死化培養細胞株が、二次的なPRRSウイルスの重感染に対して示した抵抗性は、既存のPRRSワクチンの分子基盤の一端を示している可能性がある。次年度は、樹立した持続感染細胞株の性状解析、特に非感染細胞株との差異の同定を中心に研究を展開する。具体的には、持続感染細胞株やその培養上清におけるウイルス遺伝子、ウイルス蛋白質、感染性ウイルスなどを定量的に検出・評価する。また、非感染細胞株および持続感染細胞株における宿主遺伝子の発現パターンを、RNAシーケンス法などを用いて詳細に解析し、その解析結果を分子ウイルス学的な実験手法により検証する。これらの研究を通じて、PRRSウイルスの細胞レベルの持続感染を多角的に解析し、「PRRSウイルスが細胞レベルの干渉現象を引き起こす」ことを立証して、その分子基盤を明らかにすることで、既存のPRRSワクチンの作用機序の解明や、新規PRRSワクチン開発へと展開する。
|