2022 Fiscal Year Annual Research Report
Gross Chromosomal Rearrangements induced by Transcription
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21H02402
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中川 拓郎 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (20324866)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 染色体異常 / 転写 / セントロメア / 反復配列 / ヘテロクロマチン / 相同組換え / DNA:RNA二本鎖 / Rループ |
Outline of Annual Research Achievements |
染色体のセントロメア領域は染色体分配に重要な役割を果たす。しかし、多くの場合、セントロメア領域にはDNA反復配列が存在するため、転座などの染色体異常のホットスポットでもある。染色体異常はガンや自閉症など様々な遺伝性疾患の要因となることから抑制する必要がある。これまでに我々は、分裂酵母を用いて染色体のヘテロクロマチン構造がセントロメア領域の転写サイレンシングを誘導することで染色体異常を抑制することを明らかにした。セントロメア領域に形成する恒常的ヘテロクロマチンは、ヒストンH3の9番目リシンH3K9のメチル化修飾を基盤に構築される。Clr4/Suv39メチル化酵素を破壊すると、H3K9のメチル化が消失し、染色体異常が高頻度に発生する。ところが、RNAポリメラーゼIIを変異するとclr4破壊株での染色体異常の発生頻度が減少する。これらの結果から、転写サイレンシングが染色体異常の抑制に重要であると考えられる。しかし、「転写がどのようにして染色体異常を引き起こすのか?」という本質的な疑問は解決していない。 転写産物であるRNAが鋳型DNAと水素結合することでDNA:RNA二本鎖を形成することがある。これまでの研究から、ヘテロクロマチンが正常に形成されないとセントロメア領域でDNA:RNA二本鎖が蓄積することで染色体異常が起きることが明らかとなった。そこで、DNA:RNA二本鎖形成に関与する因子を探索した。その結果、RNAポリメラーゼIIの進行停止、バックトラック(後退)、再開によりDNA:RNA二本鎖が形成することが分かった。これらの結果から、転写のダイナミックスがDNA:RNA二本鎖形成を介して染色体の安定性に関与すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
RNAポリメラーゼIIが進行停止後にDNA鎖上をバックトラックした際、RNAポリメラーゼIIは進行再開する場合とポリユビキチン化されて転写を中止する場合がある。これまでの解析から、進行再開に関与するTfs1とユビキチン分解酵素Ubp3がDNA:RNA二本鎖の形成と染色体異常の発生を促進することを明らかにした。 転写の関与を直接的に検証するために、RNAポリメラーゼIIの触媒サブユニットRpb1の変異株を用いてDNA:RNA免疫沈降(DRIP)解析を行った結果、DNA:RNA二本鎖の減少が見られた。Tfs1は転写の進行再開に加えて転写開始にも関与する。しかし、転写の進行再開を促進するときは、Tfs1は進化的に保存されたD(アスパラギン酸)とE(グルタミン酸)残基を介して、Rpb1のRNA切断活性を促進する。Tfs1のD, Eを欠失した株を作成し、DRIP解析を行ったところ、tfs1欠失株と同様にDNA:RNA二本鎖の減少が見られた。これらの結果から、Tfs1はRNAポリメラーゼIIによる転写の進行再開を促進することでDNA:RNA二本鎖形成を促進することが明らかとなった。 紫外線によるDNA損傷により転写が進行停止したとき、Def1などによりRpb1がユビキチン化される。DNA:RNA二本鎖形成と染色体異常の発生において、Rpb1のユビキチン化とUbp3の脱ユビキチン化が拮抗的に働くのかを調べた。その結果、def1を破壊するとubp3破壊株におけるDNA:RNA二本鎖の形成が回復した。また、def1を破壊するとubp3破壊株における染色体異常も回復した。これらの結果から、Ubp3はRpb1を脱ユビキチン化することでDNA:RNA二本鎖形成と染色体異常の発生を促進すると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘテロクロマチンを形成しないclr4破壊株では、セントロメア反復配列を介した同腕染色体が高頻度に形成される。相同組換え因子Rad51は単鎖DNAに結合し、相同な二本鎖DNAとの間でDNA鎖交換反応を行う。一方、Rad51とは独立に、Rad52は相補的な単鎖DNAどうし、あるいは、DNAとRNAをアニーリングする活性を持つ。染色体異常の発生頻度を測定した結果、clr4破壊株で起きる染色体異常にはRad51ではなくRad52が必要であることが明らかになった。蛍光顕微鏡観察を行った結果、clr4を破壊するとRad52フォーカスが増加することが分かった。また、クロマチン免疫沈降(ChIP)解析を行った結果、clr4を破壊するとRad52のセントロメア結合が増加することが分かった。Rad52のセントロメア結合にTfs1が必要であったことから、Rad52はDNA:RNA二本鎖形成に依存してセントロメアに結合すると考えられる。興味深いことに、rad52を変異するとDNA:RNA二本鎖の減少が見られた。これらの結果から、DNA:RNA二本鎖と単鎖DNAからなるRループが形成し、このRループにRad52が結合することでRループを安定化する可能性が考えられる。この可能性を検証するために、野生型Rad52と単鎖DNAアニーリング活性が低下した変異型Rad52-R45Kを大腸菌で大量発現、精製する。精製Rad52蛋白と合成Rループを用いた試験管内の反応により、Rad52蛋白とRループとの相互作用を解析する。また、Rループと相補的な単鎖DNAとのアニーリング、更に、DNAとRNAとのアニーリングについても解析する。
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