2022 Fiscal Year Annual Research Report
病原菌ヘムトランスポーターの構造変化の追跡と基質輸送機構の解明
Project/Area Number |
21H02421
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
杉本 宏 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 専任研究員 (90344043)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 哲就 神戸大学, 理学研究科, 准教授 (70506906)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
病原菌は宿主に感染した際に、血液ヘモグロビンから鉄をヘムの形で奪い取り、増殖に必要な栄養素として利用している。そのため、ヘムの取り込みは感染症を抑制する上でも注目されてきた。本課題では、グラム陰性の病原性細菌でアデノシン三リン酸(ATP)依存的にペリプラズム空間から細胞質へとヘムの膜輸送を行うABC型ヘムトランスポーターの構造変化のメカニズムを明らかにすることを目指している。これまでの当グループによる研究で明らかにした結晶構造からは、分子の中心を通る基質輸送チャネルに大きな構造変化が起こることが示唆されたが、ヘムやATPが結合した状態での構造は未だに決定できていないせいもあり、メカニズムの理解が全く進んでいない。本年度は、前年度に引き続きクライオ電子顕微鏡によって、ヘムの輸送過程の各構造のスナップショットを取得することを目指した。界面活性剤や両親媒性ポリマーなどの可溶化剤の種類を含めて精製方法の検討を進めた結果、観察グリッド上でのタンパク質粒子の分散性が向上する条件を見出した。休止状態のアポ型とATPアナログ結合型について、クライオ電子顕微鏡による画像データの収集と3次元画像解析による構造決定を行なった。さらに、ABCトランスポーターのなかでバクテリアのヘムトランスポーターと同じサブファミリー(タイプIIインポーター)に分類されるFe/Mnイオントランスポーターについても大腸菌を利用した組み換え体の発現系構築を行なった。各サブユニットの遺伝子の配置やタグの種類・位置などのプラスミドデザインや培養の際の様々な条件を変えて発現スクリーニングを行ったうえで小スケールでの精製を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トランスポーターは膜内在側のタンパク質であるため、試料調製ではタンパク質複合体の状態で界面活性剤をなどを利用して可溶化状態を維持することが必須である。そこで、複合体の精製方法、界面活性剤の種類やタンパク質濃度などの条件の最適化を進めてきた。前年度までは、クライオ電子顕微鏡の観察グリッド上でのタンパク質粒子の単分散性を向上させるために両親媒性ポリマーを利用していたが、トランスポーターのサブユニット構造と二次構造が識別できる程度の低い分解能のデータしか得られなかった。本年度は新たに別の界面活性剤が有効であることを見出した。凍結試料のクライオ電子顕微鏡観察を行なった結果、ヘムトランスポーター複合体の粒子間の会合が抑えられて単分散状態となり高分解能データが得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
クライオ電子顕微鏡での解析では、試料調製方法の改善を重ねることで単分散性の問題が解決できたため、今後はヘムの占有率の向上などの課題を解決して高分解能の3次元解析のためのデータ収集へ展開したい。また、時間分解解析によってどのタイミングでヘムの結合と輸送と解離が行われているかを明らかにできると考えられる。共同実験者が中心となって行うスピンラベルEPR法による実験では、ヘム結合タンパク質との相互作用やヌクレオチドの結合による膜貫通サブユニットのダイナミクスの情報を得る計画である。
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Research Products
(15 results)