2022 Fiscal Year Annual Research Report
光合成生物のレドックス制御系はin situでどのように働くのか
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21H02502
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
久堀 徹 東京工業大学, 国際先駆研究機構, 特任教授 (40181094)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 啓亮 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40632310)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | レドックス制御 / チオレドキシン / システイン / グルタチオン / 光合成電子伝達 / 酸化因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、光合成生物のレドックス制御システムの包括的な理解を目指している。特に、これまでin vitro研究とin vivo研究の結果が必ずしも一致していないことに着目し、レドックス制御系の電子の流れと鍵となるCysチオール基の状態変化を、生体内を模した条件下で系統的に調べ、レドックス制御系がin situでどのように働くのかを総合的に理解することを目的としている。当初目的に沿って、本年度も生体内の重要な酸化還元物質であるグルタチオンの影響を調べたが、明確に関与を示す結果は得られなかった。また、植物体内のレドックス変化を直接モニターするために導入を試みたセンサータンパク質については、観察に十分量のタンパク質の発現を示す植物体が得られなかった。一方で、レドックス制御系の生化学的な解析を各種の被制御系タンパク質について進めることで、レドックス制御の全体像について理解を深めることができた。 まず、葉緑体のレドックス制御系の電子伝達の主要経路であるフェレドキシン-チオレドキシン還元酵素(FTR)/チオレドキシン(Trx)経路の重要タンパク質であるFTRをゲノム編集技術により遺伝子破壊し、この経路を完全に遮断した植物体を作出して、制御システムの生理的な重要性を明らかにした。 葉緑体におけるもう一つの電子伝達経路であるNTRC経路について、NTRCと物理的な相互作用をすることが知られているシスタチオニン-βシンターゼXがAMP存在下でNTRCの負の制御因子として機能していることを生化学的に明らかにした。 レドックス制御系の重要な標的である葉緑体ATP合成酵素については、緑藻クラミドモナスを用いて制御領域の重要アミノ酸残基の変異株を作出し、レドックス応答とATP合成活性制御の対応付けを行った。また、この酵素の酸化過程におけるプロトン駆動力の寄与を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生体内の重要な酸化還元物質であるグルタチオンの酸化還元状態が、葉緑体内のレドックス制御系とどのように関わりを持つかについては、明確な結果は得られなかった。また、植物体内のレドックス変化を直接モニターできるセンサータンパク質として当研究室で開発したFROG/Bを植物体に導入したが、観察に十分量のタンパク質の発現を示す植物体が得られなかったため、共焦点顕微鏡でも情報収集ができなかった。そこで、レドックス制御系の生化学的な解析に注力し、以下のような成果を得た。 (1)葉緑体のレドックス制御系の電子伝達の主要経路であるフェレドキシン-チオレドキシン還元酵素(FTR)/チオレドキシン(Trx)経路において還元型Trxの供給を行うFTRをゲノム編集技術により遺伝子破壊し、この経路を完全に遮断した植物体を作出した。この植物体における酸化還元制御を受けるタンパク質の酸化還元動態、および、植物体の生育を調べることで、制御システムの生理的な重要性を明らかにした。 (2)葉緑体においてFTR/Trx経路とは別に働く電子伝達経路であるNTRC経路に関連して、NTRCと物理的な相互作用をすることが知られているシスタチオニン-βシンターゼXの機能解析を行い、これがAMP存在下でNTRCの負の制御因子として機能していることを生化学的に明らかにした。 (3)緑藻クラミドモナスを用いて葉緑体ATP合成酵素の制御領域の重要アミノ酸残基の変異株を作出し、レドックス応答とATP合成活性制御の対応付けを行った。 (4)葉緑体ATP合成酵素の酸化過程におけるプロトン駆動力の寄与を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、シロイヌナズナのTrxサブタイプについて、標的特異性、電子伝達速度の評価を行い、GSHの影響を調べる。また、FTRとTrx、および、Trxと標的タンパク質との相互作用に対してGSHなどの酸化還元条件が与える影響を調べる。特に当研究室で見出した酸化因子の働きを中心に生理学と生化学レベルで細胞内挙動の解明を行う。また、レドックス感受性の各種の酵素タンパク質の酸化還元挙動と細胞内環境の変化の対応付けを行う。
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