2022 Fiscal Year Annual Research Report
植物の多細胞化に重要な構造・原形質連絡の形成に関わる分子基盤の解明とその進化
Project/Area Number |
21H02516
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤田 知道 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50322631)
|
Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 植物細胞間コミュニケーション / 化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物では、細胞壁を貫き細胞間コミュニケーションに不可欠な構造として原形質連絡(PD)の存在が古くより知られている。しかしPDがどのように作られるのか、作られるPDの構造や数の制御など、これらに関わる分子制御基盤はいまでもほとんどわかっていない。 本研究は、数細胞程度にまで多細胞性を失ったコケ植物(ヒメツリガネゴケ)の変異株や植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)処理により誘導されるBrood cellにおいて、それぞれPDの密度が半分以下に低下していたという申請者らの発見に基づき、その分子制御機構の解明に取り組んだものである。そして本研究では変異株の責任遺伝子の機能とその標的因子の探索とともに解析を進め、PDを作るための分子基盤とその形成過程の一端を明らかにするとともに、これらの制御系に関連する新規化合物を探索しその標的を明らかにすることを目指した。またこれらの分子基盤が被子植物のシロイヌナズナや陸上植物の祖先群のシャジクモ藻で保存されているかどうかを調べ、シャジクモ藻から陸上植物を含むストレプト植物全体で、PD形成に関わる分子基盤の普遍性を考察した。 以上の研究からPDの密度の制御にABAコアモジュールとその下流で働く転写因子の1つが重要な役割を担っていることを明らかにした。またABA添加によるPD密度低下は細胞間コミュニケーションの一時的抑制制御に重要であり、実際に浸透圧ストレス下でも同様にABAシグナル伝達経路を用いて、PD密度を低下させる制御が働いているらしいことも明らかにした。さらに陸上植物に共通に働くと可能性があるABA制御系とはおそらく独立してPD形成に関わると考えられる2つのシグナル系の存在を見出すことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物に特有の細胞間コミュニケーションに不可欠な構造である原形質連絡(PD)がどのように作られるのか、その分子基盤はいまでもわかっていない。そこで本研究のこれまでにおける予備的な発見に基づく計画に従い、複数の関連因子を中心に、PD形成との関わりについての研究を進めた。このためにモデルコケ植物であるヒメツリガネゴケを用いて分子遺伝学、形態学、細胞生物学など多角的な観点から研究を実施した。その結果、ストレスホルモンであるアブシジン酸ABAが細胞間コミュニケーション制御に重要であり、PDの形成(特にPDの数)を抑制するABAコアモジュールとその直接の下流ターゲット候補としてある転写因子に絞り込むことに成功した。またこうしたABA経路とは独立にして働くと考えられる別の2つの経路の存在を見出すこともいくつかの繰り返し実験により確認できた。一方でABA制御系とは別の経路の働きをさらに詳細に明らかにしていくことが必要であり、この経路の存在がシロイヌナズナなど被子植物など広く陸上植物やストレプト植物で保存されているかどうかもさらに調べる必要があると思われた。以上より概ね順調に計画は進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
植物に特有の細胞間コミュニケーションに不可欠な構造である原形質連絡(PD)が単位細胞壁あたりどのぐらいの密度でどのように作られるのか、その分子基盤はいまでもわかっていない。そこで本研究のこれまでの成果をもとにさらに詳細に研究を進め、この分子基盤の全体像の理解に迫る。そのために引き続きモデルコケ植物であるヒメツリガネゴケを用いて分子遺伝学、形態学、細胞生物学など多角的な観点から研究を実施する。そして、ABA制御系、ABA制御系とは異なる2つの新たな制御系についての研究を進める。さらにこれらのPD形成の分子制御経路が広く陸上植物やストレプト植物で保存されているかどうかを、とりわけモデル植物として研究基盤のよく整備されたシロイヌナズナを用いて詳細に調べる。またストレプト植物では近年形質転換系が確立され始めてきており、こうした技術を導入しながらゲノム情報を組み合わせて利用することなどにより広くストレプト植物全体におけるPD形成の分子基盤の普遍性や進化についての考察を深めていく。
|