2021 Fiscal Year Annual Research Report
Mechanistic analysis of somatic cell reprogramming using paused iPSCs
Project/Area Number |
21H02678
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
久武 幸司 筑波大学, 医学医療系, 教授 (70271236)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福田 綾 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50436276)
西村 健 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (80500610)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | iPS細胞 / XCR / RNA-seq / Xist |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,リプログラミングを様々な段階で一時停止させた均質な細胞群(Paused iPS細胞)を利用し,RNA-seqやChIP-seqなどの遺伝子発現解析を基に,リプログラミングのメカニズムを解明する。特に,令和3年度はX染色体の再活性化(XCR)に関与する転写関連因子の同定とその分子機構で大きな成果が得られた。マウスのメス体細胞の人工多能性幹細胞(iPSC)へのリプログラミング過程では,X染色体の再活性化(XCR)が見られ,不活性なX染色体(Xi)が再活性化される。しかし,Xiがリプログラミング中にどのようにして再活性化を開始するかについては不明な点が多い。R3年度は,センダイウイルスベクターによってMEFをリプログラミングし,XCRの初期段階を解析した。その結果,1)XCRがセントロメア領域の近くにある遺伝子群で開始することを見出した。この領域には遺伝子が密に存在しており,Xi上でもクロマチン状態が比較的オープンであることも分かった。また,2)XCRの開始は、Xistの発現が完全になくなる前に起こり,細胞が間葉上皮転換(MET)を起こすときに見られた。さらに,3)XCRが開始する遺伝子の調節領域では,KDM1Aの結合量にダイナミックな変化が見られた。上記に加えて,間葉上皮転換(MET)に関与するOsr2のリプログラミングでの分子機構やレトロウイルスサイレンシングでのILF2とILF3の作用機構についても,予備的な実験において興味深い結果が得られている。Osr2の作用には,TGF-βシグナリングとWntシグナリングの関与があるようである。また,ILF2とILF3によるレトロウイルスのサイレンシングでは,転写ではなく翻訳段階が重要な可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和3年度は下記のようにXCRについて多くの成果が得られ,論文として発表することができた。具体的には,まずX染色体上の遺伝子からのアリル特異的な転写を検出するために,M. spretusとM. Musculusを交配して得られたメス由来のMEFを調製した。M. spretusとM. Musculusは遺伝的に離れたマウスで,100塩基に1箇所以上のSNPがあるため,TaqMan probe やRNA-seqによって,アリル特異的な転写産物を定量することができる。次に,薬剤耐性(HATで処理)を利用して,M. spretusのX染色体がXa,M. MusculusのX染色体がXiとなっているMEFを得た。このMEFをセンダイウイルスの系でリプログラミングし,Paused iPS細胞を得た。異なるリプログラミングのステージにあるPaused iPS細胞についてRNA-seqを行い,X染色体上の遺伝子に関して,M. spretusとM. Musculusのアリルからの転写量を解析した。Paused iPS細胞の時系列的なRNA-seq解析から,XCRがXiのセントロメア領域の近くにある遺伝子群で開始することを明らかになった。また,既に報告されているHi-Cデータベースの再解析により,この領域はXi上でもクロマチン状態が比較的オープンであることも分かった。また,Paused iPS細胞について,シングル細胞レベルでアリル特異的な転写を定量すると,XCRの開始は,Xistの発現が完全になくなる前から開始していることが分かった。ChIP-seqの解析によって,XCRが開始する遺伝子の調節領域では,KDM1Aの結合量にダイナミックに減少することも見出し,KDM1Aの阻害剤を入れるとXiでのXCRが促進された。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は,間葉上皮転換(MET)に関与するOsr2のリプログラミングでの分子機構を明らかにし,さらにレトロウイルスサイレンシングに関与するILF2とILF3の作用機構の解析も進める。まず,METの解析に関しては,iPS細胞誘導過程でのOsr2の作用機構の詳細を明らかにする。Osr2を過剰発現後にiPS細胞誘導を行い,転写の変化する遺伝子をRNA-seqによって抽出し,得られた遺伝子群についてパスウェイ解析を行う。予備的な解析の結果として,Osr2の下流で作用する機構として,TGF-βシグナリングとWntシグナリングの関与が示唆されているので,複数サンプルを用いたRNA-seqで確認する。また,両シグナリング経路の阻害剤を用いて,TGF-bシグナリングとWntシグナリングの役割を明確にする。加えて,TGF-βシグナリングの下流のシグナル伝達系は,Smadまたはno-smadの経路のどちらを介するのかも明らかにする。一方,レトロウイルスサイレンシングに関しては,ILF2とILF3の作用機構について研究をおこなう。既に,ES細胞やiPS細胞では,ILF2とILF3のノックダウンによってサイレンシングが低下することを見出している。しかし,このサイレンシングの際にレトロウイルスからのmRNAには変化が少ないので,ILF2とILF3が翻訳レベルで作用するかどうかを明らかにする。翻訳段階での作用を直接証明するために,in vitro で合成したmRNAを直接細胞に導入しILF2とILF3に依存してサイレンシングが起こるかどうかも検討する。さらに,内在性のILF2又はILF3をノックアウトしたES細胞やiPS細胞において,ドキシサイクリンで外来のILF2又はILF3を誘導する系を作製し,ILF2とILF3の機能ドメインの解析も試みる。
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Research Products
(7 results)