2021 Fiscal Year Annual Research Report
Development of tumor immunoactivation therapy targeting soluble CD155
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21H02708
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
渋谷 和子 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (00302406)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 腫瘍免疫応答 / 免疫逃避 / 分子標的療法 / 可溶型免疫受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
腫瘍免疫応答は、免疫細胞への活性化シグナルと抑制性シグナルのバランスで制御されている。近年新しいがんの治療法として注目された免疫チェックポイント阻害剤は、症例を積み重ねるに従って効果が限定的であることがわかってきた。すなわち、免疫チェックポイント阻害剤による抑制性シグナルの阻止だけでは充分に腫瘍免疫応答を増強できないと考えられる。この問題の解決には、免疫細胞への活性化シグナルを増強させる手段が重要となる。 DNAM-1(CD226)は、NK細胞やT細胞などの免疫細胞に発現している活性化受容体である。DNAM-1は、腫瘍細胞に高発現するCD155をリガンドとする。私たちはこれまでにDNAM-1と膜型CD155の結合による腫瘍拒絶の促進や、発がんの抑制を示し、DNAM-1が腫瘍免疫の活性化受容体であることを明らかにした。 一方、ヒトCD155にはスプライシングバリアントの可溶型CD155 (sCD155)が存在する。私たちは、sCD155が正常細胞に比較して腫瘍細胞から多量に産生されていることを見出した。また、がん患者の血清中では、sCD155が健常人に比較して有意に高値であった。さらに、ステージ1, 2の早期胃がん患者に対してステージ3, 4の進行性胃がん患者では血清中のsCD155が有意に上昇しており、sCD155が腫瘍の進展に関与している可能性が考えられた。そこで、私たちはマウス腫瘍モデルを用いてsCD155の生体内機能解析を行い、腫瘍が産生するsCD155が活性化受容体DNAM-1のシグナルを阻害することで、腫瘍免疫応答を抑制し、腫瘍の増殖や転移を促進していることを明らかにした。このことより、sCD155を除去すれば、腫瘍免疫応答の活性化シグナルを増強できると考えられる。今後は、この仮説を実証するために、sCD155除去による抗腫瘍効果を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに私たちは、腫瘍が産生する可溶型CD155 (sCD155) よる腫瘍免疫応答の抑制機構をマウスモデルを用いて明らかにしてきた。本研究では、これについてヒトへの外挿性を検証する。また、sCD155が腫瘍免疫逃避を促進することから、sCD155を除去すれば、腫瘍免疫応答の活性化シグナルを増強できるとの仮説を立て、マウスモデルにてこれを検証する。 本年度は、まずマウスで得られた知見のヒトへの外挿性、すなわちヒトsCD155がヒト腫瘍免疫応答を抑制できるのかについて、in vitroの系にて解析した。具体的には、ヒト末梢血よりNK細胞を分離し、ヒトsCD155存在下、非存在下で標的腫瘍細胞と共培養し、sCD155の有無によるNK細胞の細胞傷害活性を比較検討した。その結果、ヒトsCD155がヒトNK細胞の細胞傷害活性を有意に抑制することを観察した。このことは、ヒト腫瘍免疫応答においても、sCD155が腫瘍免疫逃避に関与していることを示唆している。 また、sCD155除去による腫瘍効果を検討する準備として、本年度は、sCD155特異抗体の樹立を行った。sCD155は膜型CD155の膜貫通領域を欠損した構造であるため、sCD155特異的配列はない。しかし、Exon7-8にコードされる部分は、膜型CD155では細胞内ドメインにあたるため、この部分に特異的な抗体を生体に投与した場合、細胞膜に阻まれて抗体は細胞内ドメインにアクセスできない。一方、sCD155は、可溶型タンパクとして存在しているため、抗体がこの部分にアクセスすることが可能である。したがって、この部分を標的とした特異抗体の作製を行った。その結果、抗sCD155特異抗体を13クローン得た。さらにCDRを配列をシークエンスにて決定し、13クローンが独立した抗体であることを確認した
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの知見のヒトへの外挿性、すなわちヒトsCD155がヒト腫瘍免疫応答を抑制できるのかについて、令和3年度は主にin vitroの解析を行い、sCD155によるNK細胞の細胞傷害活性が抑制されることを観察した。今後は主にin vivoにおけるヒトsCD155の機能を解析するために、ヒト化マウスによるヒト腫瘍免疫応答の観察を行う。具体的には、超免疫不全マウスであるNOGマウスにヒト免疫細胞とヒト腫瘍細胞を移入し、腫瘍細胞の排除効率や腫瘍に浸潤する免疫細胞、微小環境に発現する分子やサイトカインを指標にヒト腫瘍免疫応答を解析する系を確立し、sCD155の生体内腫瘍免疫応答での機能を腫瘍サイズや腫瘍浸潤免疫細胞を指標に解析する。 また、令和3年度に樹立したsCD155特異抗体13クローンの中から、最も効率的にsCD155を除去できる抗体を選別する。具体的には、sCD155産生腫瘍を移入した担がんマウスに、これらの13クローンをそれぞれ投与し、血清中sCD155濃度を比較検討する。効率よくsCD155除去を行える抗体が決定できたら、これを用いて、sCD155の除去による腫瘍免疫応答の賦活化を腫瘍径、生存率を指標に解析する。期待通りの結果が得られれば、抗sCD155特異抗体によるsCD155の除去という新たながん治療開発が期待できる。 さらに、sCD155除去とチェックポイント阻害剤との併用効果をマウスモデルを用いて検証する。sCD155除去法は、抑制シグナルを解除する既存の免疫チェックポイント阻害剤とは異なり、活性化シグナルを増強させる点が新しい。作用機序が全く異なるため併用効果があることが推察される。
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Research Products
(12 results)