2022 Fiscal Year Annual Research Report
脳領域間活動推定法と超高磁場MRIによるヒト味覚の神経基盤の同定
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21H02806
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Research Institution | Araya Inc. (Research & Development Department) |
Principal Investigator |
近添 淳一 株式会社アラヤ(研究開発部), 研究開発部, チームリーダー (40456108)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 基本味覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、基本味覚の味覚マップの存在を調べる実験を行うことと並行して、新たな解析方法の開発を行った。まず、人工神経回路の一種である敵対的生成ネットワークを用いて、人工神経回路を用いた脳活動マップの分類における判断根拠を可視化する方法を開発した。一般に、人工神経回路による分類は、超高次元空間における連続的情報変換によって行われるため、その判断根拠はブラックボックスであると言われる。近年、実際のデータと、意図的に非現実的な結果を出力するように訓練された人工神経回路の出力を比較することによって、人工神経回路による分類の判断根拠を可視化する、反実仮想説明と呼ばれる技術が有用であることが示されており、この手法を機能的MRIのマップの分類に用いることで、分類器の判断に影響を与える空間的脳活動パターンを同定することに成功した。この論文は、Frontiers in Neuroinformatic誌にて発表された。また、機能的結合解析法の一つとして、coactivation pattern analysisという手法があり、これは、機能的結合が動的に変化することの証拠であると考えられてきた。静的な構造に対してガウシャンノイズを付加して、人工的に合成したデータに対し、このcoactivation pattern analysisを適用すると、実データで観測されたcoactivation patternのほとんどは、本質的にこのガウシャンノイズで説明しうることが明らかになった。この結果はNeuroimage誌にて発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
約40名を対象に、五種(甘味、苦味、酸味、塩味、旨味)の基本味覚刺激提示中の被験者の脳活動を超高磁場MRIで計測した。島皮質におけるこれら5種の基本味覚の脳内表象を、univariate analysis(単変量解析)を用いて解析したところ、それぞれの味覚を弁別可能なクラスタは観察されなかった。前年度に視覚刺激実験系において開発した、副次的脳活動除去法を、この味覚データに適用し、味覚野(島皮質と前頭眼窩野)を除く脳領域(後頭葉、側頭葉、頭頂葉、前頭葉など)の脳活動で説明できる成分を解析的に除去し、5種の基本味覚にそれぞれ対応したクラスタが出現するかを調べた。ここでは、seed領域の活動からtarget領域の活動をリッジ回帰に基づき推定する脳領域間活動推定法(Pham et al., 2021)を用いて、実際の活動と推定された活動の差分を計算し、この差分において、それぞれの基本味覚に対応した活動が存在するかを調べた。その結果、一部の基本味覚においては、島皮質におけるクラスタ構造を呈していると考えられる結果が得られたものの、「五種の基本味覚全てでクラスタ構造が見られる」という、期待していたような結果は得られなかった。この結果は、島皮質における味覚マップの存在を否定する結果である可能性があるが、negative resultsの解釈には慎重になる必要があるため、次年度以降、さらに解析を追加することを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
脳領域間活動推定法を用いた副次的脳活動の解析的除去法の結果は、現時点では望ましい結果が得られていない。この結果に関しては、領域間活動推定法に用いたアルゴリズムが不十分であった可能性と、seedとして用いた脳領域が不適切であった可能性があるため、これらの可能性について十分な検討を行い、結果の改善を目指して、次年度以降もデータ解析を継続する。また、次年度は、neurovascular couplingにおける静脈の影響を最小化し、毛細血管由来のシグナルを捉えることを目的として、initial dip(刺激直後に観察されるblood oxygen level dependent signalの低下)に着目した解析を行う。そのため、島皮質のみを撮像範囲とすることで、時間解像度を大きく上げた撮像プロトコールを採用して、新たに機能的MRI実験を行うことを予定している。この手法により、正確な味覚マップを作成可能となり、その結果、ヒトにおいても、5種の基本味覚に対応するクラスタが、島皮質内で観察されることを期待している。この手法によっても、味覚マップが観察されない場合には、ヒトにおいては、味覚野の味覚マップが存在しない蓋然性が高まると考えられる。また、これらのデータを用いたmultivoxel pattern analysis(多ボクセルパターン解析)を行い、信号ノイズ比を上げてもなお、味覚マップが得られないか検証する。
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