2021 Fiscal Year Annual Research Report
最も少ない労力で行える溺死の補助診断検査:法医実務に合わせた最も効果的な活用法
Project/Area Number |
21H03215
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
湯川 修弘 宮崎大学, 医学部, 教授 (30240154)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柿崎 英二 宮崎大学, 医学部, 准教授 (70284833)
新川 慶明 宮崎大学, 医学部, 助教 (40625836)
園田 愛 宮崎大学, 医学部, 助手 (10762122)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 法医学 / 死因究明 / 溺死の診断 / 水棲細菌 / LAMP法 / 珪藻 / 壊機法 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで我々は溺死診断の一助とするために,水棲微生物(水棲細菌,珪藻)を指標とした新しい検査法の開発に取り組んできた。本研究ではそれらの研究成果の中で,法医実務に最も効果的に対応できる3つの検査方法について,さらに改良を加えると共に,多くの実務事例に対して検証を実施し有効性を明確に示したい。溺死の診断に汎用される従来の珪藻検査法(壊機法)は非常に有用であるものの、操作が煩雑で多大な労力・時間を要する。また94%硝酸を加熱沸騰させて行うため危険性も高い。そこで明らかに溺死に特徴的な解剖所見を認める事例に対しては,従来の検査の代わりに簡単に行える代替法があれば,効率的に対応できると考えた。我々は2つのPrimerセット (淡水溺死用・海水溺死用)を用いるだけで,水棲細菌群を一括して検出できるLAMP法 (Loop-Mediated Isothermal Amplification) を開発した。本年度はこれまでに我々が報告したLAMP法に改良を加えてさらに簡便・迅速化を試み,実際の解剖例に対して大規模に検証した。過去の解剖例で未検査であるすべての保存試料(右肺下葉内部,左肺上葉辺縁部,左心血,右心血,大腿静脈血,腎臓,肝臓)を対象とした。その結果,溺死例では珪藻検査において肺組織で陽性が得られた検体の殆どで水棲細菌も陽性であった。また,珪藻検査で陽性の得られなかった腎臓や肝臓、血液の検体であっても、水棲細菌検査は多くの場合で陽性が得られた。さらに肺水腫を認め診断の難しい非溺死例において,肺や腎臓,肝臓の組織から僅かな珪藻を検出し,偽陽性が疑われた検体でも,水棲細菌は陰性を示し実務での診断に非常に役立った。このように水棲細菌の検査は数時間で検査を完了できる上に,作業工程もほぼ自動化できたため,労力は非常に少なく簡便・迅速な検査方法としてその有効性を明確に示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果から,従来の珪藻検査法(壊機法)の代替法としてLAMP (Loop-Mediated Isothermal Amplification) 法 を用いた水棲細菌の検査が法医実務検査として十分に役立つことが示された。また,従来の検査よりも安全に行えることはもちろんのこと,はるかに簡便かつ迅速に検査を完了できることも確かめられた。さらに,検出感度についても従来の珪藻検査では判断ができなかった血液や腎臓,肝臓の試料からも多くの事例で陽性反応が得られ,より高感度に検出できることが確認された。これにより,少なくとも我々の施設では,従来危険で多大な労力や時間を要していたプランクトン検査の実務環境が飛躍的に改善できた。また珪藻を指標とした壊機法について,1960年代以降,偽陽性の問題が解決されずに残っているが,この研究を通して偽陽性検出に関する重要な知見が得られた。これについては今後国際誌で論文発表を行って広く世界に公表していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,従来の珪藻検査法(壊機法)を実施したすべての事例に対して,水棲細菌を指標としたLAMP (Loop-Mediated Isothermal Amplification)法の検査を実施・完了すると共に,壊機法の代替法として,酵素を用いた安全な珪藻検査法のさらなる改良を検討する。加熱沸騰させた発煙硝酸(94%硝酸)を用いる従来の壊機法は,安全面(化学熱傷,酸性ガスの吸引)や設備面(遠心機及び周辺機器への金属腐食,ドラフトチャンバーの設置・維持管理)の問題があるものの,組織を溶解する能力は格段に高く非常に優れている。しかし施設によっては壊機法を実施できない設備環境もあるため,酵素を用いて珪藻を検出する方法が利用できれば,施設の環境に応じた新たな選択肢が増え非常に役立つと考えている。
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Research Products
(5 results)