2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H03866
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
長村 祥知 富山大学, 学術研究部人文科学系, 講師
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 『承久記絵巻』 / 『承久記』 / 『吾妻鏡』 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初、本研究課題は、非「研究機関」聖護院史料研究所の客員研究員として行う予定であったが、申請者が6月1日より「研究機関」富山大学学術研究部人文科学系講師に着任したことにより、富山大学で研究費を管理することとなった。 龍光院本『承久記絵巻』について、書誌を紹介するとともに、近世の文献上に所見する〈承久の乱を描く絵〉との関連や本文の特色を考察した。 承久の乱を描く絵が龍光院本に限らず存したことは、近世の文献上で確認できるが、その数は多くない。江戸時代には『承久軍之絵』三巻が知られており、昭和時代には『承久記』の奈良絵本と思しき古典籍の詞書が紹介されたが、いずれも現在は所在不明である。また龍光院本とは別の(1997年時点で松本寧至氏所蔵)白描『承久記絵巻』零本が実在する。これら数少ない承久の乱あるいは『承久記』を描いた絵は、いずれも龍光院本の底本・写本とは考えがたく、近世において龍光院本全6巻はよく知られた作品ではなかったと考えられる。 龍光院本の詞書は『承久記』流布本系の本文と位置付けられる。従来知られている流布本系の本文がいずれも漢字片仮名交じりであることに対して、龍光院本は漢字平仮名交じりであり、平仮名の分量が多い点に特徴を有する。龍光院本は、すでに紹介された流布本系本文のなかでは慶長古活字本・寛永版本に最も近い。ただし、慶長古活字本・版本と比べると、数文字程度の異文も複数あり、古活字本・版本の誤りを正した文や、解釈・事実認識が変わる文もある。その他、北条義時追討院宣の伝達者の表記から、龍光院本は版本『吾妻鏡』をも参照したと考えられる 。
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