2021 Fiscal Year Annual Research Report
研究者と連携して、汎用的能力を育む、法哲学教材の開発
Project/Area Number |
21H03889
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Research Institution | 東京都立町田高等学校 |
Principal Investigator |
久世 哲也 東京都立町田高等学校, 主任教諭
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 法教育 / H.L.A.ハート / 法哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、根本的な「法の在り方」自体を問う、法哲学的視点を導入した、高校生向け法教育教材を開発するものである。そもそも法教育は、法的専門家ではない一般の人々に開かれたものであるという点で、法曹を養成するための法学教育と区別される。しかしこれまでの法教育教材は、実定法の手続的な正しさを説くものが中心で、法を道徳等の他の価値との関係の中で相対化したり、法そのものを倫理的視点で吟味したりするような、様々な価値に対して開かれた教材はほとんど見られなかった。そこで、法教育を市民のものにするために、実定法が前提とする価値だけに偏らない、法哲学的視点を導入した教材開発に取り組んだ。 法哲学的視点の導入にあたっては、H.L.A.ハート(Herbert Lionel Adolphus Hart,1907-1992)の悪法問題における立場を参考にした。その立場とは具体的には、「これは法だ、しかし適用したり服従したりするには、あまりにも邪悪だ。」として、悪法も法だと認めることによって生じる道徳的ジレンマを重視するものである。このジレンマによって、法と道徳に対する捉え方が多元的になり、短絡的な規範主義や相対主義には陥らない教育が実現すると考えた。 開発した教材を活用した授業では、学習者の解答として、ルールの文言を抽象的な表現に留めることで解決を道徳に委ねようとするものや、関係者と融和することでルールが不要になる状況を創り出そうとするものが提示された。これらの解答の分析・評価を通じて、法の根本的な理解の下で法によらない解決策も含めて吟味させることが、法的主体としての在り方を実現させる可能性があることが示唆された。この結果は、比較対象とした既存の法教育教材による授業が、学習者に、規範教育的なものとして受け取られたことと対照的であった。ここから、法哲学的視点の導入には、一定の意義があることが確認された。
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