2021 Fiscal Year Annual Research Report
TOF-SIMSによる有機分子の検出感度向上のための前処理法の開発
Project/Area Number |
21H04130
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宍戸 理恵 東北大学, 多元物質科学研究所, 技術一般職員
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | TOF-SIMS / イオン化 |
Outline of Annual Research Achievements |
飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)は、微小領域に存在する分子を高感度に分析することのできる数少ない手法である。しかしながら、質量数が1,000を超える分子については、イオン化しにくいという難点があり、その検出感度は低質量の分子と比較して、2桁以上低下する傾向にある。目的とする分子の明瞭な分布情報を得るためには、その検出感度を如何に向上させるかが重要である。 そこで本研究では、分析対象分子のイオン化効率を簡便に向上させるための前処理法の確立を目指した。具体的には検出感度の低い分子に対して、そのイオン化を促進させるための添加剤を加え、添加剤の濃度と目的分子の感度向上の度合の関係について調査を行った。 評価分子には、生体リン脂質であるDPPCおよびDSPCを選定した。これらのリン脂質は、プロトンを付加したかたちでイオン化することが知られている。そのため、添加剤にはプロトン供給効果が高いと考えられるクエン酸を選択した。その結果、クエン酸をリン脂質に対して、1:1000の濃度比で混合させた試料では、最も高い効果が得られ、リン脂質単独試料と比較して、リン脂質の検出感度が約400-600倍向上する結果が得られた。またクエン酸のプロトン付加でのイオン化は、大きく抑制されたことから、評価分子と添加剤との間で起こるプロトンの授受がリン脂質の飛躍的な感度向上に繋がったものと推察している。 有機分子の可視化技術は、癌や感染症を特定するための病理診断に利用されている。このことから生体組織のように表面に複数の異なる分子が存在する状況下においては、それぞれの分子を同時に高感度に分析することが望まれる。今後は、複数の有機分子の混在下において、個々の分子の検出感度が最も向上する前処理条件の確立を目指していく予定である。
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