2023 Fiscal Year Annual Research Report
パルス印加による恒常的量子相変換の学理創成と再構成可能な非散逸電流回路への展開
Project/Area Number |
21H04442
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
賀川 史敬 東京工業大学, 理学院, 教授 (30598983)
|
Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
Keywords | 準安定 / 創発インダクタ / ドメインエンジニアリング |
Outline of Annual Research Achievements |
・走査型ラマン顕微鏡を立ち上げ、その際のテスト試料として、DMe-(DCNQI)2Agを対象とし、室温において空間分解能400nm程度のラマン像の取得に成功した。 また、theta-(ET)2RbZn(SCN)4という物質において、東工大を表わす「TIT」の文字を準安定電荷ガラス相で書き込み、その様子をラマンイメージングで可視化することに成功した。この書き込みは準安定相を用いて行ったものであり、昇温によってリセットが行えるため、再構成可能な書き込みとなっている。 ・らせん磁性や磁気スキルミオンといった非共線な磁気構造に電流を印加すると、スピン移行トルク効果によって、磁気秩序に電流誘起の歪みが現れる。外部電流を交流にすると、磁気秩序は時間的にゆっくり変動するダイナミクスを示し、スピン移行トルクの逆効果として、時間依存する創発ベクトルポテンシャル、すなわち電場が生じる。このような効果から生じる創発電場により、特に交流電流印加の場合、非散逸な交流電場が生じることとなり、すなわちインダクタ応答が発現する。この非散逸な創発交流電場は、電流の時間波形や強度を制御することで、相転移を伴わない線形応答の範囲で生じうる。本年度はこの電場の発現機構やその性質について、マイクロマグネティックシミュレーションの立場から理解を深化させることを行い、いわゆる創発インダクタの低周波領域における自己インダクタンス係数Lのエネルギー的な定義を提唱した。ピン止め領域のヘリカル磁気テクスチャの場合について、その妥当性を数値的に調べた。創発インダクタンスを、創発電場から、またスピン系エネルギーから、それぞれ独立に計算した。磁性体のエネルギー増加から求めたインダクタンスと、創発電場から求めたインダクタンスは、特にスピンテクスチャーがゆっくり変化し、系が断熱極限にある場合、数値誤差の範囲内で一致することがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
走査型ラマン顕微鏡については、装置の移設後の動作不良が無事解消し、電荷ガラス相のin-situでの書き込み・可視化に成功したものの、超伝導相やトポロジカル相の書き込み自体には未だ成功していない。この点については、申請時の計画通りには進んでいない。 一方、申請時よりも研究スコープを広げ、走査型ラマン顕微鏡が不調になった場合を想定して始めた創発インダクタの研究については、まずはマイクロマグネティックシミュレーションから始めたこともあり、極めて順調に進んでおり、査読付き論文を2本発表することができている。以上より、当初の予定通りではないが、総合的に見て、概ね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
・走査型ラマン顕微鏡を用いたin-situな準安定相書き込みやその可視化に向けた測定を継続して行う。場合によっては、比較的低い臨界冷却速度を持つ物質の選択を再検討する、または、外場によって準安定性を制御することを模索する。 ・創発インダクタに関しては、マイクロマグネティックシミュレーションにより、原理的な側面を明らかにすることはできたので、今後は実験での実証を目指す。パーマロイなどの標準的な強磁性体を細線状に加工したものに対してインダクタンスの測定を行う。具体的には(i)様々な幅のパーマロイ細線に対して測定を行い、創発インダクタンスの試料断面積依存性の解明、(ii)ローレンツ透過型電子顕微鏡による実空間観測を行い、非共線磁気構造の担い手である磁壁と創発インダクタンスの相関の解明、の2項目を実施する。マルチドメイン構造の制御と創発インダクタンスとの相関を明らかにすることで、非散逸なインダクタ応答の制御を目指す。
|