2021 Fiscal Year Annual Research Report
人工トポロジカル構造が誘発するスピンダイナミクスの学理構築と制御技術の開発
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21H04614
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷山 智康 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (10302960)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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Keywords | 磁性 / スピントロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、強磁性薄膜と強磁性体、強誘電体、超伝導体により形成される広義のトポロジカル構造とのヘテロ構造に対して、トポロジカル構造に誘発される有効磁場が強磁性薄膜のスピンダンピングに与える影響を網羅的に精査することで、強磁性金属におけるスピンダンピングの要因を全容解明することを目的とする。本目的を達成するために、本年度は、下記の研究項目を実施した。 (1)強磁性規則合金薄膜の作製とスピンダンピング特性の評価 スピンダンピングの異なる種々の強磁性合金薄膜試料を系統的に準備することを目的として、合金組成の異なるFe-Rh系強磁性規則合金薄膜をMBE法により作製した。作製した一連の試料に対して、薄膜X線回折装置を用いて結晶性を確認し、それぞれの試料に対して、ベクトルネットワークアナライザを用いた強磁性共鳴測定に基づいてギルバートダンピング定数を評価した。その結果、Fe-Rh系強磁性規則合金薄膜の合金組成を変化させることでギルバートダンピング定数が大きく変調され、特定の組成でギルバートダンピング定数が負となる特異な挙動を見出すことに成功した。 (2)強磁性/反強磁性ヘテロ界面における新規界面磁性層の形成と垂直磁気異方性 強磁性Fe薄膜/反強磁性FeRh規則合金薄膜ヘテロ構造における強磁性共鳴の評価を行った。その結果、強磁性Fe薄膜や反強磁性FeRh規則合金薄膜のそれぞれの薄膜から予想される強磁性共鳴とは異なる新たな強磁性共鳴の分枝が現れることを見出した。また、この新たに見出された強磁性共鳴の分枝が、強磁性Fe薄膜/反強磁性FeRh規則合金薄膜界面に形成される垂直磁気異方性を有する新規界面磁性層に起因することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
種々の強磁性規則合金薄膜の高品質形成とスピンダンピングの評価を実施し、ギルバートダンピング定数が合金組成に依存して特異的な変化を示すことを実証することを通して、当初の計画通りにスピンダンピングの評価手法を確立することができた。また、当該手法を用いることで、当初予想されていなかった強磁性金属/反強磁性規則合金界面における界面磁性層の形成と垂直磁気異方性の発現を見出すことにも成功した。以上の理由により、当初の予定に対して概ね順調に研究が進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
磁性材料におけるスピンダンピング挙動がトポロジカル欠陥によりどのような影響を受けるかについては、未解明の問題である。この問題を明らかにするために、人工的に形成した磁気渦状態を持つ磁性ドット格子と種々の強磁性薄膜(多層膜)との接合構造を作製しスピンダンピングを評価することで、磁性ドット格子が磁性薄膜のスピンダンピングに与える影響を系統的に調査することを予定している。また、強磁性薄膜と異なるドメイン構造を持つ強誘電体や渦糸状態を形成できる超伝導体とのヘテロ構造化により、強磁性薄膜への多様なトポロジカル構造の導入を試みる。これにより、強誘電体、超伝導体等を含めた広義のトポロジカル構造が強磁性薄膜(多層膜)のスピンダンピングに与える影響を評価し、上記の課題を解明するため知見を集約する。
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