2022 Fiscal Year Annual Research Report
遷移金属二窒化物の成膜技術の確立と電子物性の実験的解明及び制御
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21H04615
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長谷川 正 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20218457)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 拓也 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70815787)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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Keywords | 金属窒化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属窒化物は,硬質性や耐摩耗性,超伝導性など様々な物性を有し,実用材料として用いられる物質も多い.常圧下では窒素に富んだ遷移金属窒化物の合成報告は非常に少ないのに対して,高温高圧下ではPtN2やCrN2などの多くの遷移金属多窒化物が合成されている.これらの遷移金属多窒化物に関する理論計算は多数あるが,金属箔や粉末を用いて超高圧合成した試料は微小かつ脆弱であるため実験による物性測定は皆無であった.研究初年度では,絶縁基板上に成膜したPt薄膜を窒化してPtN2薄膜を合成し,その電気的・光学的特性を測定した研究を報告した.そこで2年度目は,遷移金属窒化物の系統的物性解明を目的とし,超高圧合成されたPtN2以外の多窒化物薄膜試料の合成を目的に,CrN2薄膜試料の超高圧薄膜合成および膜性状を評価した.高温超高圧合成実験にはダイアモンドアンビルを用いたレーザー加熱式ダイアモンドアンビルセル合成システムを使用した.アルミナ基板上に膜圧の金属Crを成膜して出発試料として用い,CrN2薄膜の合成を試みた.先行研究の基板なしの試料では,CrN2と直方晶CrNの複相が合成され,試料内部まで十分に窒化されなかった.これに対して,本研究で合成された試料を合成後に超高圧その場X線回折測定した結果,基板上の薄膜試料では,CrN2のほぼ単相であることがわかった.常圧回収した試料の膜性状をSEM-EDXにより観察したところ,赤外レーザー照射位置の中心に近いほど,すなわちより高温であると考えられる部分では基板が露出し,中温部分では試料面外方向に成長したCrN2,低温部分では粒成長した密な膜組織のCrN2がそれぞれ観測された.しかしながら,常圧回収した試料の基板には亀裂が入ってしまった.これは,高圧下における圧力勾配とレーザー加熱時の温度勾配が原因であると考えられ,次年度の課題となる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主な内容は,「成膜技術の確立と薄膜合成」,「測定技術の確立と物性測定」,「物性の解析と解明」,「化学修飾と物性の制御」の4つであり,様々な遷移金属二窒化物を対象に研究を進める.2年度目には主に,「成膜技術の確立と薄膜合成」と「測定技術の確立と物性測定」に主眼を置いて研究を進め,対象物質は代表的な前期3d遷移金属二窒化物の1つであるCrN2を対象に研究を進める計画であった.これらの目的に対して,まず,「成膜技術の確立と薄膜合成」については,新型コロナ感染症の影響で実験装置の電子デバイス部品と真空排気装置の輸入遅延に伴って納期が遅れていた成膜装置が納品され,これを立ち上げて実際にCrN2薄膜の薄膜合成に成功した.この結果は,初年度のPtN2に引き続いて基板上に金属二窒化物が合成された2例目の成功となるばかりか,ほぼ単相の金属二窒化物薄膜試料の成膜に世界で初めて成功した成果である.したがって,金属多窒化物,薄膜合成化学,高圧力物質科学の各分野に与える影響が大きい重要な成果と位置付けられる.一方で,「測定技術の確立と物性測定」については,次年度に課題が残った.超高圧高温で成膜したCrN2薄膜を常圧回収したところ,赤外レーザーを照射した位置の中心に近い部分では基板が露出してしまった.すなわち,この部分では赤外レーザー加熱により合成されたCrN2が何らかの理由で完全に欠落してしまった.さらに,常圧回収した試料の基板には亀裂が入ってしまい,電気抵抗などの電子物性の測定が困難であった.したがって,これらの点は次年度に克服する必要がある.低温から電気抵抗を測定できる実験装置を前年度より独自に開発してきたが,これをさらに改良して,信頼性の高いデータが得られるようになり,ルーチン実験に供することが可能となった.以上より,当該年度の研究は概ね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,これまで開発した技術と成果をベースに,物性測定に供することができる試料,すなわち基板上の単相薄膜試料を成膜する点に主に注力する.その理由は,初年度にPtN2の基板上薄膜試料についてすでに電気抵抗の測定に成功しており,その測定技術を他の系の金属多窒化物に展開して系統的に研究を進めるためには,様々な系の金属多窒化物の成膜が最も肝要となるためである.そこで,「成膜技術の確立と薄膜合成」として,我々のグループで粉末試料ではすでに合成に成功している3d遷移金属多窒化物をターゲットとして,これらを基板上に単相で成膜することを第一の目的として研究を進めることとする.そのために,超高圧合成に用いるダイアモンドアンビルセルのガスケットの加工と選択,試料基板の加工と選択,赤外レーザー加熱の手法,常圧への回収方法などを中心に再度検討して研究を進める.また,「化学修飾と物性の制御」を念頭に,一部の系では2元系固溶体合金の出発試料を用いて,窒化物薄膜を成膜し,擬2元系金属多窒化物の基板上成膜にも挑戦する.SEM-EDX分析,放射光X線回折測定,顕微ラマン分光測定による膜性状と微構造の調査を行う.「測定技術の改良と物性測定」として,微細加工電極や,基板蒸着後に微細加工成形をした測定用試料を作製する.低温からの高精度な定量物性測定を汎用的に行うために前年度までに新たに構築した電気抵抗測定システムを改良する.また,電気抵抗率の測定を行い,電子状態(金属,超伝導,半導体)を調べる.金属の場合は,温度依存性を解析して電気伝導機構を考察する.超伝導体の場合は,臨界磁場と臨界電流密度を決定する.半導体の場合は,電流・電圧特性と活性化エネルギーを評価する.さらに,第一原理計算によって,電子構造を明らかにして,上記の物性測定結果と計算により解明した電子構造の結果を比較・検討する.
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