2023 Fiscal Year Annual Research Report
Creation of Fuel-Cell Electrocatalysts by Irradiation-Induced Atomic Vacancies: Performance Control Based on Clarification of Dynamic Behavior
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21H04669
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
八巻 徹也 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子技術基盤研究部門, 部長 (10354937)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松村 大樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (30425566)
中村 一隆 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302979)
岡崎 宏之 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 主任研究員 (90637886)
池田 隆司 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 研究統括 (60370350)
出崎 亮 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員 (10370355)
田口 富嗣 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員 (50354832)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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Keywords | 固体高分子形燃料電池 / 電極触媒 / 酸素還元反応(ORR) / 荷電粒子ビーム / 原子空孔 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、炭素担体上のPtナノ微粒子(Pt/C)触媒、窒素ドープ炭素系(N-C)触媒で起こる酸素還元反応(ORR)の動的挙動に着目し、X線吸収微細構造(XAFS)解析、第一原理計算と超高速レーザー分光の融合により、当該触媒における炭素原子空孔の役割を解明することである。今年度は、グラファイト粉末や高配向性熱分解グラファイト(HOPG)基板等に荷電粒子ビームを照射し、本研究の開発手法により適切な実験条件の下でPt/C触媒、N-C触媒を作製するとともに、先進XAFS測定や原子空孔を導入したグラファイトに対する分子動力学(MD)シミュレーション、過渡反射率測定を行った。 Pt/C触媒に対して透過型電子顕微鏡観察を行ったところ、グラッシーカーボン(GC)に物理蒸着したPtナノ微粒子のサイズは、イオンビーム照射GC上で未照射GC上に比べてわずかに減少、アスペクト比(縦/横比)は不変であった。一方、N-C触媒の作製では、多層カーボンナノチューブを混合したポリアクリロニトリルの電子線架橋体を前駆体とする新しい手法において、最大のORR電流を示す試料の合成条件を見出した。 XAFS解析では、Pt/C触媒粉末を対象に、広域X線吸収微細構造(EXAFS)領域における解析可能なデータの取得にはじめて成功した。X線ラマン散乱分光(XRS)では、イオンビーム照射グラファイト粉末のスペクトルを酸素雰囲気下でその場測定することができ、オペランド測定への展開を期待させる成果が得られた。 第一原理MD計算では、シミュレーション手法の改良を行い、加速エネルギー等のビーム照射条件による欠陥形成過程の変化を追跡した。また、HOPG基板のコヒーレントフォノン計測結果の詳細な解析を進め、空孔導入によりグラフェンの層間に引張応力、面内には圧縮応力が生じていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
粉末状試料等への荷電粒子ビーム照射技術を利用して、新たな試料作製法の開発と最適条件の探索を進め、先進XAFS測定やフォノンダイナミクスのための過渡反射率測定に十分量となる試料の提供が可能になった。また、プラズマ法等の既存手法に加え、本研究で見出した新しい手法により、従来研究と比較して最高レベルのORR電流を示すN-C触媒の作製に成功した。 Pt/C触媒粉末に対する雰囲気制御下その場XAFS測定では、EXAFS領域の解析に進展したことから、これまでの電子状態だけでなく局所的な原子構造の観点でも時分解XAFS測定の対照データとして価値ある成果が得られた。一方のXRSでは、酸素吸着による表面電子状態の変化を観測でき、今後のオペランド測定に向けたデータ収集は完了しつつある。 さらに、第一原理MDシミュレーション手法の改良により、加速エネルギー等のイオンビーム照射条件による欠陥形成過程の変化が追跡可能になったことは、空孔を導入したグラファイト構造の原子レベル解明・モデル構築、さらにはそれに基づくORR機構の予測へと研究の大きな進展を期待させる。イオンビーム照射HOPG基板のコヒーレントフォノン計測では、未照射HOPG基板と比較して、グラフェン層間振動フォノンは振動数が低くなり、グラフェン面内振動フォノンは振動数が高くなることを見出している。この結果は、原子空孔の導入によりグラフェンの層間に引張応力、面内に圧縮応力という異方的な歪みが生じていることを示しており非常に興味深い。 以上の諸点より、ORR触媒における炭素原子空孔の役割解明に向けて重要な成果が得られており、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
電子構造に基づく酸素吸脱着とORRダイナミクス、原子空孔により制御される電荷輸送についての知見を取得して、触媒の作製手法へフィードバックをかけるため、以下の先進XAFS測定や理論計算、フォノン物性研究を計画している。①Pt/C触媒粉末に対し、電位掃引下等のオペランドXAFS解析を進め、酸素吸着の強さ・様式や反応中間体などの情報を実環境に近い条件で取得する。また、グラファイト粉末やN-C触媒を対象に、環境制御下でXRS計測を行い、CのK吸収端に係る情報の取得を進めることで、触媒活性点や性能劣化に対する原子空孔の役割を検討する。②第一原理MD計算により構築した構造モデルを用い、酸素分子の吸着様式、触媒活性点で可能なORR機構を予測する。③原子空孔を有するグラファイトに対し適用できるコヒーレントフォノン制御モデルとして、量子マスター方程式を用いた理論構築を進める。 以上の方策を実施することで、ORRの動的挙動に立脚したメカニズムを解明するとともに、それをもとにしてORR性能の制御、向上への指針を提示することにより、研究全体を総括したい。
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Research Products
(14 results)