2022 Fiscal Year Annual Research Report
気相モデルクラスターによる生体分子および水における半結合形成の解明
Project/Area Number |
21H04671
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
藤井 朱鳥 東北大学, 理学研究科, 教授 (50218963)
|
Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
Keywords | 半結合 / 2c3e結合 / 赤外分光 / ラジカル / カチオン / 水素結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
水が半結合を形成する条件を探るために、(H2O-X)+ラジカルカチオンクラスターの赤外スペクトルをイオン化ポテンシャル、プロトン親和力が異なる様々なX分子との組み合わせで観測し、ラジカルカチオンクラスターの構造と2分子間の結合形態を決定した。X分子のイオン化ポテンシャルが水分子に近づけば半結合の強度が増強され、プロトン親和力が大きくなるとH2O+と水素結合により結ばれる構造が有利になると予想される。 X=N2, CO, CO2, N2Oの組み合わせで新規にOH伸縮振動領域の赤外スペクトル観測を行い(X=N2O,CO2に関しては先行研究での不確定さを排した再測定)、MP2法(一部密度汎関数法)による安定構造計算及び調和振動計算結果と比較して、観測されたラジカルカチオンクラスターの構造を決定した。その結果、X=N2O, COで半結合が、X=N2, CO2で水素結合型が優勢となることが明らかとなった。既報のX=He, Ne, Ar, Kr, H2Oの結果と併せて、相手分子Xのイオン化ポテンシャル-プロトン親和力の2次元プロット内で水との半結合が水素結合よりも安定となる領域を確定した。その結果、相手X分子のプロトン親和力が水のそれよりも低く、かつイオン化ポテンシャルが水とは1.5eV以内の近接値を取ることが水素結合構造との競合に勝って半結合形成が実際に起きるための条件となることが分かった。更にこの領域内にも特異点が観測され、X分子のイオン化ポテンシャルだけでなく非結合性軌道の張り出し具合が半結合強度に影響を及ぼすことが、量子化学計算の結果から示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は赤外分光をベースとした研究を進め、水の半結合生成条件というこれまでに管見の限り提案されたことのない新たな着目点で水の半結合生成の理解に深化をもたらすことが出来た。更に、昨年の(H2O-Kr)+系に加えて、新たに2つの系で水の半結合形成を確定させた。これらの一連の成果により、水の半結合に関する系統的な理解が整いつつある。 また、水-水間の半結合形成の観測を目指して、電子遷移による観測の準備も進める事が出来た。光源とするために昨年度新規に導入した光パラメトリック発振器には波長連続掃引において技術的な問題があったが、今年度この問題を解決することが出来、これで電子遷移観測の準備が完了した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は半結合の電子遷移による観測・同定に注力し、特に水のラジカルカチオンクラスターにおける水-水間の半結合形成の実験的証明を最大の目標として研究を推進する。まず、本年度に半結合形成を確定させることが出来た(H2O-N2O)+に電子遷移観測を適用し、半結合に特徴的なsigma-sigma*遷移の観測を行って、観測手法の確立と遷移強度の定量的な取り扱いの基盤を固める。続いて、水のラジカルカチオンクラスターにこれを適用し、最大の研究課題に挑む。 また、これまで半結合研究の基盤としていた赤外分光では構造解析法としての有用性がX-Hを含む系に実質上制限されていたので、電子遷移を用いることにより、(チオ)エーテル類などX-Hを含まず、過去に主に理論計算を頼りに構造(半結合)の帰属が成されていた系に対する検証も併せて進める。
|