2021 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical study of efficient excitation energy transfer in light-harvesting antenna of higher plants
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21H04676
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
斉藤 真司 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 教授 (70262847)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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Keywords | 高等植物 / 光捕集アンテナタンパク質 / 励起エネルギー移動 / クロロフィル分子 / 電子状態計算 / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
高等植物の光捕集アンテナタンパク質LHCIIの励起エネルギー移動の分子機構の解明には、LHCII中の不均一な環境に存在するクロロフィル分子(Chl aおよびChl b)の励起エネルギーおよびその揺らぎの情報が不可欠となる。一般に、このような複雑な系の中のChl分子の電子状態の解析には、(時間依存)密度汎関数理論((TD)DFT)計算が用いられる。しかし、標準的に用いられているパラメータによる(TD)DFT計算では、このような大きな分子のソルバトクモミズム、すなわち、溶媒や局所環境による励起エネルギーの変化を適切に記述することができない。 以前の研究において、我々は(TD)DFT計算におけるrange-separated parameter(μ)を決め直すことにより、この問題を解決できることを示した。そこで、本研究課題においては、まず、様々なμでジエチルエーテル、アセトン、エタノール中のChl aやChl bの励起エネルギーを計算し、これらの溶液中のChl aおよびChl bの励起エネルギーの実験結果を同時に再現するChl aおよびChl bに対するμを決定した。また、新たに決定したμによるChl aやChl bの電子状態の変化を解析した。さらに、今回決定されたμを用いた(TD)DFT計算により、パラメータ決定に用いていない溶液(N,N-ジメチルホルムアミド)中のChl aおよびChl bの励起エネルギーの実験値も適切に再現できること(パラメータのtransferability)も確認した。この結果は、今回決定したμを用いた電子状態計算により、LHCII中の不均一環境中のChl a, Chl bの励起エネルギーも適切に再現できることを示唆している。このように、本年度の研究により、LHCII中の励起エネルギー移動を適切に求めるための礎を構築することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で推進する励起エネルギー移動の分子機構の解明には、複雑な構造をもつLHCII中のChl aおよびChl bの励起エネルギーおよびその揺らぎを適切に見積もることが不可欠である。Chlのような大きな分子の励起エネルギーの計算は困難であるため、これらの分子の電子状態計算には(TD)DFT計算が用いられる。しかし、(TD)DFT計算では、ソルバトクモミズムを適切に記述することができない。そこで、この問題を解決するために、2021年度、我々は、複数の溶液中のChl aおよびChl bの励起エネルギーの実験結果を同時に再現するrange-separated parameterを決定し、Chl aやChl bを取りまく環境の違いによる励起エネルギーの変化を適切に記述することを可能にした。このように、本年度の研究により、LHCIIにおける励起エネルギー移動の分子機構の解明に向けた一歩を着実に踏み出すことができた。また、これらの結果を論文として纏めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、我々は複数の溶液中のChl分子(Chl a, Chl b)の励起エネルギーを適切に記述する(TD)DFT計算のパラメータの値を決定した。 励起エネルギー移動の解明には、複雑な構造をもつLHCII中のChl aおよびChl bの励起エネルギーに加え、その揺らぎ(スペクトル)の情報も不可欠である。励起エネルギーの揺らぎの情報を得るため、今後、分子動力学(MD)シミュレーションが必要となる。しかし、通常のMDシミュレーションに用いられる力場パラメータによるエネルギーは、適切な電子状態計算によるものとは異なり、ダイナミクスを正しく記述することができない。 この問題を解決するため、次の段階として、我々が決定した適切なパラメータを用いた(TD)DFT計算によるLHCIIの全Chl分子(Chl aが8分子、Chl bが6分子の合計14分子)の電子基底状態、励起エネルギーを適切に再現するMD計算で用いるポテンシャル関数の開発を行う。また、Chl分子間の電子間カップリングの関数の開発も行う。このように開発したポテンシャルエネルギー、励起エネルギー、および電子カップリングの関数により、LHCII中の各Chl分子が周囲のタンパク質や他のChl分子との相互作用を適切な記述で高速に求めることが可能となる。そこで、これらの関数を用い、Chl分子を含む膜中のLHCII全系のMD計算を行う。この計算に基づき、Chl分子の励起エネルギーやその揺らぎを決定し、エキシトンのダイナミクスを解析を進め、LHCII中の励起エネルギー移動の分子機構の解明を目指す。
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Research Products
(13 results)