2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21H04679
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
堀内 佐智雄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (30371074)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊井 玲児 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (00356924)
石橋 章司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 上級主任研究員 (30356448)
五月女 真人 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (40783999)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2024-03-31
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Keywords | 誘電体 / 有機結晶 / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
強電場により相転移が生じ分極が急激に増加する性質(メタ誘電性)をもつ誘電体は、電気エネルギーの貯蔵や機械/熱エネルギーとの相互転換機能への利活用の観点から、近年熱い注目を集めている。本研究では、環境適合性の高いエネルギーエレクトロニクスを実現するため、高性能のエネルギー貯蔵・変換機能をもつ有機分子材料の開発を行っている。電場により双極子の反平行秩序状態から平行状態へ転換できる反強誘電性は、一種の相変化であるが、それに伴う二重ループ型の分極履歴特性が直接観測された有機分子結晶の例は、これまでごく僅かであった。今回、プロトン移動型の有機結晶に強電場を印加することで新たな反強誘電体を数例見出し、四角酸とフランジカルボン酸では、15μC/cm2超の大きな誘起分極を実現できた。四角酸では90%もの高効率で静電エネルギーを蓄えられ、重量ベースでは無機系のバルク反強誘電体に匹敵する貯蔵エネルギー密度を持つことも明らかにできた。 さらに、反強誘電体以外の新たな相変化型誘電体設計として、傾きあう双極子からなる強誘電体(傾角強誘電体)の異方性の活用を実証した。2-フェニルマロンジアルデヒド結晶では200kV/cmもの強い横電場を自発分極軸に垂直に印加した結果、5.8μC/cm2の誘起分極を伴う(反強誘電体状の)二重履歴が得られた。 また、強電場オペランド分光および回折評価についても、設備の導入と立ち上げや試運転を行い、本格稼働ができる状態に近づいた。 誘起分極は、電場印可により分極サブユニットの一部が分極反転することで発生する。個々のサブユニットの分極ベクトルを理論計算により求め、ベクトル合成により見積もった誘起分極は、実験結果と非常に良い一致を示した。さらに、ファンデルワールス密度汎関数理論による結晶構造最適化・分極計算機能を整備し、電場誘起相転移のシミュレーションを実行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
四角酸の電場誘起相変化に伴う誘起分極や静電エネルギー貯蔵密度、貯蔵効率とも、有機分子系の中で群を抜く性能であるだけでなく、重量ベースであれば静電エネルギー貯蔵密度は無機のバルク反強誘電体の最高性能に匹敵、凌駕するレベルにあり、軽量の有機材料の優位性を発揮できている。さらに今回、反強誘電体以外にも新たな相変化材料設計指針を提示、実証でき、結晶構造から相変化の可能性や分極性能を的確に予想できる理論計算体制が整ったことなどから、今後の材料のさらなる進化にも大いに期待ができる。また、オペランド計測体制も順調に整備されており、微視的評価の本格稼働が視野に入った。
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Strategy for Future Research Activity |
相変化型誘電体物質の強電場物質科学の学理を構築に向けて、以下の3項目に取り組む。 I. 結晶構造と理論計算による相変化予測 ケンブリッジ結晶構造データベース(CSD)を活用し、既報の結晶構造のもつ擬似的な並進対称性を解析し、相変化型の分子性誘電体結晶候補であるかを判定する。昨年度からのプロトン移動型の材料に加え、新たに分子回転などの他の動作機構型の材料にも探索範囲を拡張し、候補抽出を目指す。抽出した有力候補について、密度汎関数法に基づく理論計算を行い、電場下での構造変化と対応するエネルギー変化を追跡し、相変化の実現性を確認する。一方、実測値との照合を通じて、動作メカニズムの検証や動作阻害要因についても一定の評価を行う。分極値だけでなく電気ひずみ効果についてもシミュレーションを行い、実測結果との比較を行う。 II. 材料合成と新奇強電場相の開拓 有力候補については、市販品の入手または合成、再結晶や温度勾配昇華による精製と単結晶化を行う。単結晶の薄膜化を試みるため、ブレードコート法などの各種塗布成膜実験を行う。分極―電場(P-E)履歴特性測定を行い、相転移現象の有無、誘起分極やスイッチ電場、エネルギー貯蔵機能を評価するほか、変位計測を同期させることで、相変化前後の電気ひずみ効果の評価も行う。誘電率、インピーダンスの温度特性の計測、単結晶X線回折による相転移前後の結晶構造解析を実施し、温度相図と各相の誘電状態を明らかにする。 III 強電場下の構造-機能相関の評価 放射光X線を用いた強電場下のオペランド回折実験を行い、強電場下で見出したメタ誘電転移に伴う結晶構造変化や電気ひずみとその微視的構造起源を明らかにする。また、前年度から準備を行ってきた強電場オペランド分光の評価設備を完成させ、強電場下の電子状態の変化や分極状態の空間分布を実測評価する実験を開始する。
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Research Products
(8 results)