2022 Fiscal Year Annual Research Report
森林生態系におけるコウチュウ目ー微生物群集共生系の共進化動態解析
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21H04736
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保田 耕平 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30272438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 紘士 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (00508880)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2025-03-31
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Keywords | 菌嚢 / 酵母 / 材食性 / 腐食連鎖 / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
〇コウチュウ分類群の共生微生物のメタゲノム解析:本年度はホスト材のタイプが異なるルリクワガタ属3群の雌成虫菌嚢、消化管、幼虫の消化管、糞、ホスト材中の坑道壁等の解析サンプルについて、真菌類、バクテリア類のメタゲノム解析の途中段階まで進んでいる。また、多様なクワガタ分類群についても本州、北海道からサンプルをすでに収集している。 〇ホストコウチュウ目と共生微生物の共進化動態解析:本年度は日本産・中国産クワガタムシ科の幅広い分類群と共生酵母の共進化動態解析をほぼ完了した。両者には共進化的関係が認められるものの、クワガタのホスト材の腐朽タイプと共生酵母の系統に相関があることから、ホスト材の腐朽タイプが共通するクワガタ分類群間で「共生酵母の乗り換え」が生じることが強く示唆された。また、ルリクワガタ属の産卵行動、雌の羽化時の行動をビデオカメラを用いて観察し、共生微生物の垂直伝播の様式をほぼ特定できた。 〇気候変動にともなうコウチュウ目分類群―微生物共生系の動態予測:日本産クワガタムシ科の多様な種から分離した共生酵母についても、ルリクワガタ属と同様に高温耐性がホストクワガタ種の生息環境と相関を持つことが明らかになった。ホスト昆虫の動態予測には、共生微生物の要求環境を考慮する必要があることが示唆された。 〇コウチュウ分類群―微生物共生系の生態的機能の解明:コクワガタを材料として、共生酵母および共生バクテリアが木材構成成分の資化やホスト昆虫の成長・発育にどのような機能を果たしているか検討するため、培養実験・飼育実験を行った。それぞれの微生物の効果が示唆される結果が得られており、次年度も実験を継続する。 〇解析候補種の遺伝的分化、生態ニッチ分化解析:解析候補の材食性昆虫のクワガタムシ科、腐食連鎖に関わるオサムシ科の種について、解析ユニットを決定するための遺伝的分化、生態ニッチ分化解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初の計画のうち、材食性昆虫の共生微生物のメタゲノム解析や共生機能解析に関しては、材料の収集を完了し、PCR段階まで順調に進んでいる。次年度中には1回目の解析が完了する予定である。また、ホストコウチュウ目と共生微生物の共進化動態解析、気候変動にともなうコウチュウ目分類群―微生物共生系の動態予測についても、順調に進展しており、成果の一部は原著論文として取りまとめている段階である。本年度は新たに、コウチュウ分類群―微生物共生系の生態的機能の解明にも着手した。全体としておおむね予定通りの進捗状況と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
クワガタムシ科の微生物に関するメタゲノム解析は、2023-2024年度にかけて複数回解析を実施する予定である。また、共生系の機能解析についても、各種のクワガタムシ科の種で進行中であり、ホスト昆虫と共生微生物の共進化動態の解明、共生微生物の垂直伝播プロセス、幼虫の成長・生存への貢献、各種糖類の資化能力等の検討を2023年度も継続する。すでにいくつかの解析では結果が得られているので、準備のできたものから論文投稿と学会発表等を並行して進める。また、腐食連鎖に関係するコウチュウ類に関する同様の解析はすでに一部のサンプル収集や予備的解析を開始しているが、2023-2024年度に本格的に実施する予定である。
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