2022 Fiscal Year Annual Research Report
Approach to new material development based on underwater adhesive substance analysis of marine organisms
Project/Area Number |
21H04741
|
Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
野方 靖行 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 上席研究員 (10371535)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
広瀬 雅人 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (10809114)
平井 悠司 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (30598272)
室崎 喬之 旭川医科大学, 医学部, 助教 (40551693)
小林 元康 工学院大学, 先進工学部, 教授 (50323176)
|
Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2025-03-31
|
Keywords | フジツボ / コケムシ / 付着生物 / 水中接着 / 幼生 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は海洋生物が実現している水中接着に着目し、生物が産する水中接着物質の詳細解析により水中接着メカニズムを解明し、水中接着模倣や付着防止などへの新たな応用の道を拓くことを目的としている。当該年度は、昨年度に引き続き、解析用の試料の収集とともに飼育した付着生物幼生を用いた付着実験や観察を実施した。 1)水中接着様式解析:昨年に引き続き、フジツボ等の水中接着物質発現解析に向けて、アカフジツボ、タテジマフジツボおよびフサコケムシ幼生を付着前から付着変態直後まで発達段階毎に固定し、RNA抽出を行った。 2)水中接着物質の物性解析:昨年に引き続き、アカフジツボキプリス幼生の分泌されたセメントタンパク質の回収を継続した。また、照明の位置やカメラの設定を調整することでキプリス幼生の探索行動を長時間撮影することが可能となり、撮影した動画を解析した結果、付着率の高い表面と付着率の低い表面では探索行動に差が生じていた。今後は着生に至るまでの行動を詳細に撮影、解析することで、表面の極性の違いと付着行動の関係を明らかにし、付着防止材料の開発に役立つ知見が得られるものと思われる。 3)水中接着プロセスに基づく材料設計:昨年度得られた双性イオンによる接着防止効果に着目し、ポリマーグラフトシリカナノ粒子(SiNP)を調製し、簡単なディップコーティング法によって最表面に親水性スルホベタインメタクリレート (MAPS)のブラシ状構造を作製した。フジツボキプリス幼生への付着をAFMによって調査した結果、ポリ(MAPS)-g-SiNPコーティング表面は、海水中で18日間キプリス幼生に対して極めて低い付着力を維持し、両性イオンポリマー-g-SiNPコーティング表面の有効な防汚特性を示すことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの影響により、サンプリングを予定通りに実施することが困難であったため、試験生物の採集に影響が生じた。それに伴い、幼生の接着実験などにも遅れが見られた。また、予定していた学会への参加等も制限されてしまったため、進捗状況については「やや遅れている」とした。 但し、生物の飼育開始には遅れが生じたものの、2022年夏頃からは予定通り生物採集を実施することが出来たことから、付着生物を用いたRNA調整や接着タンパク質の回収サンプルを十分量確保することが可能となった。加えて、キプリス幼生の探索行動を長時間撮影することが可能となったことから、極性等が異なる表面上での探索行動や接着物質放出などの詳細な行動解析から水中接着プロセスの理解が進むと考えられる。 材料設計についても、飼育環境下のキプリス幼生を用いた材料への付着力測定実験が行えるようになったため、所期の成果を得られつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
各種付着生物の飼育環境整備および観察系、実験系の整備が出来たため、予定している付着実験、接着物質固化プロセス解析に向けた実験および材料設計と材料の評価を順次行っていく予定である。 1)水中接着様式解析:調整したRNAサンプルについて、次世代シーケンサーを用いた発現解析を実施し、フジツボ類およびコケムシ類の水中接着に関する発現系の解明を目指す。加えて、フジツボ類やコケムシ類以外の水中接着を実現している他分類群の生物についても、発現遺伝子やタンパク質の相動性解析の実施を計画している。また、フジツボ幼生の接着物質中にはアルギニンやリジンの含量が高いことが知られている。よって、リジルオキシダーゼが接着時の架橋に関与している可能性が考えられる。リジルオキシダーゼ阻害剤存在下でのフジツボ幼生の接着アッセイを行うことで、接着物質の固化へのリジルオキシダーゼの関与を調べる予定である。 2)水中接着物質の物性解析:アカフジツボキプリス幼生からのセメントタンパク質を十分量収集し、加水分解後にマススペクトル測定を行い、セメントの架橋状況等を調査する。また、極性の異なる表面上での一時接着タンパク質の残存状況や表面残存時の物性等を各種機器分析等により解析する。 3)水中接着プロセスに基づく材料設計:引き続き双性イオンポリマーブラシによる材料設計と付着生物幼生の接着力解析を進め、他項目の成果から得られる水中接着プロセスに基づく、新しい材料設計を進展させる予定である。加えて、これまでの知見を活用し、試験片などのコーティングを行い、フィールドでの浸漬試験を行うことで、実海域での付着状況の観察も実施する予定である。
|