2023 Fiscal Year Annual Research Report
睡眠と覚醒状態における匂いの脳内表現の差異とそのメカニズムの解明
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21H04789
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
風間 北斗 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (90546574)
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Project Period (FY) |
2021-04-05 – 2026-03-31
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Keywords | 嗅覚情報処理 / 睡眠 / 行動状態 / イメージング / ショウジョウバエ |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、二光子顕微鏡下でショウジョウバエ成虫の嗅覚回路の活動と個体の行動を同時に計測するシステムを用いて、嗅覚二次中枢であるキノコ体に属する約2000個全ての主要神経細胞(ケニオン細胞)の神経活動を、運動と安静、そして睡眠と覚醒状態において計測してきた。本年度はより脳の深部においてより顕著な睡眠状態依存的活動変化が見られるかどうかを検証した。具体的には、ケニオン細胞の下流に位置するドーパミン細胞を標的とした。ドーパミン細胞は、解剖学的な側面で興味深いだけでなく、先行研究で睡眠に関わることが報告されているため、その匂い刺激に対する活動変化を調べることは妥当だと考えられたためである。 キノコ体は15個のコンパートメントと呼ばれる区画化された構造から成り、異なるコンパートメントには異なるタイプのドーパミン細胞が投射している。そこで、キノコ体に投射する全てのドーパミン細胞に蛍光カルシウム指示薬GCaMP6sを発現させ、コンパートメントごとに蛍光強度の変化を解析した。キノコ体全体の輪郭はMB246-DsRedを使うことで可視化し、各個体で観察したキノコ体をテンプレートにレジストレーションした。その結果、運動から安静状態に移行する際に全体として大きな活動の変化が見られた一方、さらに安静から睡眠状態に移行する際にはコンパートメント特異的にベースライン及び匂い応答が変化することを見出した。デーコーディングの手法を用いて定量したところ、ドーパミン細胞の活動に符号化される匂い情報が変化することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
運動と安静、睡眠と覚醒状態において、キノコ体ドーパミン細胞の匂いの脳内表現にどのような違いがあるかという、年度当初の目標に迫るためのデータを取得できたため。また、安静と睡眠状態間で嗅覚情報処理が異なるという仮説を支持する結果が得られたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は嗅覚二次中枢であるキノコ体のドーパミン細胞の活動を計測したが、今後はキノコ体の主要細胞であるケニオン細胞から直接匂い情報を受け取ると同時に、ドーパミンと相互作用するキノコ体出力細胞において、睡眠状態依存的活動変化が見られるかどうかを検証する。キノコ体出力細胞もドーパミン細胞同様、先行研究で睡眠に関わることが報告されているため、その匂い刺激に対する活動変化を調べることは重要なステップであると考えられる。数理解析を通して、これらの細胞が表現する匂いの種類や価値の情報が、睡眠状態においても保持されているかどうかを調べる。
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