2022 Fiscal Year Annual Research Report
Quantification of the climate-productivity-population history in Japanese archipelago by refinement of oxygen isotope dendrochronology
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21H04980
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中塚 武 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (60242880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若林 邦彦 同志社大学, 歴史資料館, 教授 (10411076)
藤尾 慎一郎 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (30190010)
中久保 辰夫 京都橘大学, 文学部, 准教授 (30609483)
箱崎 真隆 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (30634414)
庄 建治朗 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40283478)
松木 武彦 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (50238995)
坂本 稔 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (60270401)
木村 勝彦 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70292448)
小林 謙一 中央大学, 文学部, 教授 (80303296)
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Project Period (FY) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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Keywords | 年輪年代法 / 酸素同位体比 / セルロース / 日本列島 / 気候変動 / 農業生産量 / 人口 / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、中世以前の日本列島を対象にして、気候・生産・人口の変動史を定量的に明らかにする研究手法を確立することである。そのために、酸素同位体比年輪年代法を土台にして、以下の2つの研究手法(1.遺跡出土木器の個別年輪年代データの集積による遺跡毎・地域毎の木器の年別出現数ヒストグラムの構築、2.高精度古気候復元データを使った生産量と人口の変動シミュレーション)の開発と成果の統合を通じて、「仮説提案・検証型」の新しい定量的な歴史の研究方法論を創出することを目指している。 本年度は、1)過去5千年間の年輪酸素同位体比のクロノロジーの構築と気候復元の高度化、2)小径木の年代決定のためのセルロース酸素同位体比の年層内変動のデータベースの構築、3)北部九州や近畿、東海の遺跡出土材の網羅的年代決定などに、主に取り組み、それぞれ、以下の成果を得た。 1)紀元前千年紀(弥生中期)から三千年紀(縄文中期)までの2千年以上に亘る年代決定のための酸素同位体比クロノロジーの構築と高精度化に新たに成功すると共に、日本と世界の古気候・古海洋データの比較から、日本の夏の気候の短・中・長期変動が「大陸の気温」と「海洋の水温」の2つの要素で統合的に説明できることを初めて解明した。2)近畿東海地域の弥生中期から古墳中期に至る数百年間を対象に、主に広葉樹のセルロース酸素同位体比の年層内変動のデータベースの拡充を行い、年代決定の可能性を広げた。3)放射性炭素のウィグルマッチング法も併用しながら、北部九州の弥生時代の遺跡出土材の年代を決定すると共に、ヒストグラム構築に適した東海地域の中世の膨大な遺跡出土材の収集を進めた。 得られた成果は、次年度以降の本研究の基盤になると同時に、国際誌や国内誌等において発表されており(印刷中・投稿中のものを含む)、各地の遺跡発掘調査報告書などにも反映されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の核心は、酸素同位体比を用いて大量の遺跡出土木製品の網羅的な年代決定を行い、そのデータを積み上げたヒストグラムを作成して、気候変動に伴う農業生産量や災害発生頻度の変化が、人口などの人間活動の定量的変化にどのように影響するかを明らかにすることにある。研究の当初は、コロナ禍により遺跡出土材の収集が進まず、周辺的な技術開発(小径木の年代決定のための年層内クロノロジーの構築など)に注力していたが、その後、北部九州や近畿・東海地域で、大量の木製品が出土した遺跡からの資料提供を受ける機会に恵まれ、本来の研究目的に沿った成果が得られ始めている。 その中では、年代決定のための酸素同位体比クロノロジーのある中部日本から遠く離れた北部九州の出土材の年代を確実に決めるために、放射性炭素のウィグルマッチング法を援用しながら、現地での独自のクロノロジー構築を新たに目指す一方で、大量の針葉樹の出土木製品が新たに見つかった東海地域では、年輪幅と年輪酸素同位体比を組み合わせた迅速で正確な年代決定の体制構築が展望できるなど、新たな展開も生じてきている。 また、従来は乾湿(湿度)と暖寒(気温)の指標として、一括して評価してきた中部日本の年輪セルロース酸素同位体比のデータを、屋久島の年輪セルロース酸素同位体比や北半球の陸面の平均気温、さらに西太平洋の水温の古気候・古海洋データと比較・分析することで、日本の夏の気候が、「大陸の気温」と「海洋の水温」の両者の統合的な影響で決まっていることが解明でき、その知見は、日本の歴史上の各時代の気候の詳細な状況(例えば、同じ湿潤な時代でも、寒冷で湿潤なのか、温暖で湿潤なのか)について、その気象的背景と社会的影響までを含めた、総合的な理解が深まりつつある。こうした知見を総合することで、より正確な気候-生産-人口の変動のモデル化と実証ができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの研究の蓄積と進展の上に立って、以下の研究に集中的に取り組む。 1)近畿・東海地域および北部九州地域の中世や古墳・弥生時代の遺跡から出土した大量の出土材の年代を、年輪幅と年輪酸素同位体比を組み合わせた迅速・正確な年代決定法を開発しながら網羅的に決定し、出土材の年別出現ヒストグラムを作成して、人間活動の変動の定量的な評価に向けて詳しく解析する。 2)現代から縄文中期までの約5000年間を一年単位でつなぐ、あらゆる周期の気候変動が反映された年輪セルロース酸素同位体比のクロノロジーを構築して公開する。それは、これまで弥生前期以降に限られてきた「気候変動の周期性の変化と人間活動の関係に関する考察」を、縄文時代まで広げることで、農耕社会と狩猟・採集社会の気候・環境変動に対する対応の違いを明らかにする上でも、重要な契機となりうる。 3)日本列島において年輪セルロース酸素同位体比のデータが示す気候変動の実相をより深く理解するために、そのデータと日本と世界における最新の高時間分解能の古気候・古海洋データや近現代の気象観測データとの比較分析を更に進め、年輪データから、気候、生産、人口までに至る因果関係のモデルを精緻化すると共に、モデルの空間的2次元化を進めて、1)で得られた出土木製品の年別出現ヒストグラムとの対比を進める。 4)上記の研究の日本全国での推進及び成果の活用のために、コロナ禍で停滞していた埋蔵文化財発掘調査員を対象にした酸素同位体比年輪年代法の技術移転のための講習会を、自治体や大学などの関係者に呼び掛けて再開する。 5)本研究の最終年度に向けて、研究の車の両輪である「モデルを使った変動シミュレーション」と「年代データのヒストグラムによる実証」の相互関係について、その照合の結果を踏まえた考察を進め、新たな研究方法論の構築につなげる。
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Research Products
(21 results)