2022 Fiscal Year Annual Research Report
Exploration of new functionalities in 4f-5d electron system via invention of rare earth monoxides
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21H05008
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
福村 知昭 東北大学, 理学研究科, 教授 (90333880)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡 大地 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (20756514)
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Project Period (FY) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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Keywords | 希土類単酸化物 / エピタキシャル薄膜 / ヘテロ構造 / スピントロニクス / 酸化物エレクトロニクス / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
軽希土類単酸化物CeOエピタキシャル薄膜を合成し、CeOが高いホール移動度をもつ常磁性金属であることを明らかにした[Phys. Rev. B 106, 125106 (2022)]。また、新物質である重希土類単酸化物TbOエピタキシャル薄膜の合成にも成功し、TbOは231 Kという高いキュリー温度を示すことがわかった[Dalton Trans. 51, 16648 (2022)]。その一方、TbO薄膜にはセスキ酸化物Tb2O3の不純物相が少なからず混入してしまっていた。セスキ酸化物の形成を抑制するために、バッファー層を導入したところ、TbO単相のエピタキシャル薄膜を合成することができた。くわえて、DyOとErOについても単相のエピタキシャル薄膜ができ、これらの新物質は強磁性体であることがわかった。同様にバッファー層を用いて高温強磁性体GdO薄膜を作製したところ、電気伝導性が向上し、異常ホール効果を観測することに初めて成功した。 NdO薄膜の物性の膜厚依存性を調べた結果、一般に強磁性体薄膜は薄い膜厚では磁化やキュリー温度の顕著な減少が見られるが、NdOの薄い薄膜ではキュリー温度の倍程度の温度まで異常ホール効果のヒステリシスが観測され、この膜厚では高温までおそらく弱強磁性の磁気秩序が形成されていることがわかった。NdO/EuOヘテロ構造では、電気伝導性のNdO層が降温とともにEuOのキュリー温度付近で著しい絶縁体金属転移を示すことを発見した。このような現象はNdO単膜では見られないことから、EuOからの強い磁気近接効果を受けたものと考えられる。そして、プラナーホール効果は顕著かつ非自明な磁場依存性を示した。これは、Ndイオンのスピン磁気モーメントとEuイオンのスピン磁気モーメントの交換結合によるもので、これらの交換結合を電気的に検出した初めての例である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CeOと新物質TbOのエピタキシャル薄膜の初合成と基礎物性の解明について論文を発表した。そして、新物質である重希土類単酸化物DyOとErOエピタキシャル薄膜の合成と物性評価の目途は立ち、論文化に向けて実験は最終段階にある。残る一つの希土類単酸化物TmOエピタキシャル薄膜の合成も1年程度で目途が立つと見込んでいる。合成が難しかった重希土類単酸化物については、バッファー層の開発により、エピタキシャル薄膜の高結晶性化・単相化を達成することができ、希土類単酸化物固有の物性を調べることができるようになった。また、薄いNdO薄膜において、キュリー温度の倍の温度に至る高温磁性相の形成が予期せず観測された。そして、NdO超薄膜は絶縁体的な電気伝導であったが、NdO/EuOヘテロ構造ではEuOのキュリー温度付近でEuO層からの磁気近接効果によるNdOの顕著な絶縁体金属転移およびスピンモーメント間の交換結合という、予期していなかった特異な磁気伝導の発現を観測することができた。今後も、様々な希土類単酸化物ヘテロ構造で、新たな物性や機能の発現が期待できる。一方、固溶体では新物性・機能を見つけるのは困難という見通しに至ったが、そのぶん、試料の種類が多く、物性測定の解析に時間を要するヘテロ構造の研究に注力することができる。電子状態マッピングとスピン偏極トンネル分光については測定の難易度も高いため、それぞれの希土類単酸化物でより安定して電子状態の基礎データを取得できる光電子分光に移行し、有用な基礎データが得られている。 ウクライナ侵攻のため、薄膜作製で用いているエキシマレーザー用のヘリウムやネオンガスの供給が途絶えているが、ガスの不要なNd:YAGレーザーを購入したため、現有のエキシマレーザーの使用が不可能になっても、研究の継続が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
希土類単酸化物の合成を引き続き進める。新強磁性体であることがわかったDyOとErOについては論文化を進め、残る一つの希土類単酸化物であるTmOについては合成条件を最適化し基礎物性を明らかにする。今のところ、TmO相の合成はできており強磁性を示すことがわかっているが、結晶性が低く、不純物相が存在するため、バッファー層等の条件の最適化が必要な段階である。また、セスキ酸化物が不純物相として残っていたTbOについては、バッファー層を用いて単相の薄膜を合成し、すでに報告したように半導体の性質をもつか、それとも金属の性質をもつかどうかを明らかにする。 NdOの薄い薄膜における高温弱強磁性の発現とNdO/EuOヘテロ構造における磁気近接効果で誘起された絶縁体金属転移およびスピンモーメント間の交換結合の発現については論文化を進める。そして、非磁性単酸化物SmOとEuOのヘテロ構造における磁気近接効果や超伝導体LaOと弱強磁性体PrO等のヘテロ構造における超伝導の近接効果による超伝導特性のヘテロ界面制御を行う。 希土類単酸化物の固溶体合成については、新物性発掘の可能性が低いため、しばらく保留する。また、極低温走査型トンネル顕微鏡を用いたトンネル分光の実験は、薄膜表面が原子レベルで平坦であることが求められ、実験の難易度がかなり高いことから、希土類単酸化物の電子状態については、放射光を用いた光電子分光の共同研究により評価する。 薄膜作製全般を担当の岡大地氏は都立大准教授に栄転したが、今後も分担体制を進める。一方で、2023年6月から着任する後任の助教も薄膜作製を担当する予定である。ヘテロ構造については、NdO/EuOを大学院生が担当したが、磁気伝導特性の解析の難易度がかなり高いことが判明した。したがって、2023年からSahoo氏を博士研究員として雇用し、ヘテロ構造の研究を進めている。
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Remarks |
第38回希土類討論会 学生講演賞 受賞 佐々木智視 (東北大学)岩塩構造テルビウム酸化物TbOの薄膜合成および物性評価
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