2021 Fiscal Year Annual Research Report
メタンを起点とする湖沼生態系:放射性炭素を用いた新しい評価法
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21J00787
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
浦井 暖史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学センター), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | メタン / 放射性炭素 / 断層湖 / 炭素循環 / 同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、深部メタンの湧出が確認されている諏訪湖にて、深部メタンが湖水中に取り込まれる過程や諏訪湖の生態系に与える影響について、化合物レベル安定同位体比分析や放射性炭素測定等を用いた定量的な評価を目的としている。本年度は表層水圏由来のメタン,および深部堆積層から湧出するメタンについて解明を行った。 表層堆積物から放出されるメタンは湖底堆積物中に生息する「メタン生成アーキア」と呼ばれる微生物が生産していると考えられている。諏訪湖では夏季に「アオコ」と呼ばれるシアノバクテリアブルームが発生する。アオコや表層堆積物の遺伝子解析結果から、死滅後のアオコが表層堆積物中で速やかに分解され、堆積物に生息する微生物の栄養源となっていることを示した。メタン生成アーキア特有のバイオマーカーである補酵素F430を分析した結果、表層堆積物だけでなく、アオコからも高濃度のF430が検出された。これは好気環境下にてアオコとメタン生成アーキアが共存してメタンを生成していることを強く示唆する。 また、諏訪湖内で湧出するガスの放射性炭素を測定した結果、湧出ガスに含まれるメタンには放射性炭素がほとんど含まれておらず、大気と隔絶された深部炭素であることを示した。加えて、湖水に含まれる溶存無機炭素の放射性炭素を分析したところ、湧出サイト付近の溶存無機炭素には深部炭素が63%含まれており、湧出サイトから離れた沿岸部でも溶存無機炭素に深部炭素が約10%含まれていることが示された。このことから、湧出ガスに由来する深部炭素の一部は、表層水圏の炭素循環に取り込まれていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、予定していた夏季の調査を翌年に延期したが、予備調査で採取した試料の分析を進めたことで、深部湧出ガスの起源や水圏内の炭素循環への影響について、一定の知見を得ることができた。これらの成果は国際学術誌に投稿し、受理されている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍により前年度に実施できなかった調査については、次年度に実施する予定である。また、信州大学諏訪臨湖実験所の協力を得て、諏訪湖に生息する各種生物の分析にも着手する。これらの資料に対して、放射性炭素やアミノ酸の窒素同位体比などの分析手法を適用する。
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