2021 Fiscal Year Annual Research Report
Effect of the Global Conveyor Belt for forming circumglobal-scale population on deepwater fishes
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21J01755
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Research Institution | Kanagawa Prefectural Museum of Natural History |
Principal Investigator |
和田 英敏 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 特別研究員(PD) (80914100)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 汎世界分類群 / シロカサゴ科Setarchidae / 汎世界分布種 / 生物地理学 / 魚類分類学 / ヤセアカカサゴ属Lioscorpius / クロカサゴ属Ectreposebastes |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は海産魚類における汎世界的集団構造の実態解明を目的に、深海性の汎世界的分類群であるシロカサゴ科魚類を例として分類学的研究と生物地理学的研究を行うものである。 2021年度の研究計画では、主に国外研究機関を訪問し、標本調査にもとづき分類学的研究を遂行し、本科魚類が多く水揚げされる漁業現場にてサンプリングを行うことで、発展的な研究の基礎を固めることが主な目標であった。しかし、当該年度は新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響により国外への渡航および漁業現場への直接の訪問が困難であった。したがって当該年度の計画を見直し、国外研究機関から標本を借用することで分類学的研究を可能な限り進め、日本太平洋沿岸域での市場調査によるサンプリングや、訪問可能な国内研究機関での調査を行うことで研究を進めた。 分類学的研究の過程でヤセアカカサゴ属の各種の識別的特徴と分布を整理した結果、本属には既知の2有効種に加え南太平洋固有の2新種が含まれことが明らかになり、更に東インド-西太平洋域に複数の未記載種が存在する可能性が示唆された。さらに前述の2種を含むシロカサゴ科を構成する有効種の分子系統解析および生物地理学、古生物学の知見から、シロカサゴ科の起源は後期中新世の東インド-西太平洋にあり、そこから派生的な分類群が汎世界的に分布を拡大したという仮説を導き出した。これらの研究成果は学会発表と学術論文においてまとめられており、このうちヤセアカカサゴ属の分類学的研究についてまとめた学術論文1編は既に受理され、国際学術誌において公表されている。このように2021年度の研究によってシロカサゴ科魚類の種多様性と各属各種の分布実態が再評価され、海産魚類における汎世界的に分布する分類群の起源がどこにあり、どのような分布段階にあるのかという最も根本的な疑問について、信頼性の高い仮説を得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により当初予定していた計画は大幅に見直さざるを得なかったものの、2021年度は海外研究機関の快い研究協力によりヤセアカカサゴ属の新種記載を含む分類学的研究を遂行できたことに加え、古生物学分野の研究の発展によりシロカサゴ科の起源に迫る仮説を得るなど、想定以上の研究の進展があった。 分類学的研究の過程でヤセアカカサゴ属の各種の識別的特徴と分布を整理した結果、本属には既知の2有効種に加え南太平洋固有の2新種が含まれことが明らかになり、更に東インド-西太平洋域に複数の未記載種が存在する可能性が示唆された。この知見をまとめた学術論文1報は既に国際学術誌にて電子出版されている。このように分類学的研究によってヤセアカカサゴ属の多様性が再評価された一方で、更なる分類学的研究の必要性が浮き彫りとなった。なお当初予定されていたクロカサゴ属の分類学的研究は、標本の収集が新型コロナウイルス感染症の蔓延による海外渡航の制限、国外研究機関の運営状況の閉塞などの影響により困難であったため、達成されていない。 一方生物地理学的研究においては、前述の2新種を含むシロカサゴ科の現生種の分布パターンが明確となり、後期中新世の本科魚類の化石種が2021年4月に記載されたことで本科魚類の起源について新たな視点に基づく考察が可能となった。シロカサゴ科現生種の分布パターンおよび分子系統樹にもとづく各種の系統関係をNishimura (1982)の分布の段階法則にあてはめると、シロカサゴ科の起源は後期中新世の東インド-西太平洋にあり、そこから派生的な分類群が汎世界的に分布を拡大したと解釈できる。しかし、派生的な分類群の出現時期についてはいまだに明確な回答が得られていないため、今後は分子系統学、形態分類学、および古生物学の総合的な視点からこれを明らかにする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は分類学的研究の進捗が芳しくなかった一方で、他分野の発展に伴い遊泳力の乏しい深海性魚類において汎世界的分布がいかにして獲得されたかについて解明するための新しい切り口が見えてきた。すなわちシロカサゴ科魚類における汎世界分布種がいつ出現したかを古生物学と分子系統学の観点から推定し、その年代の海洋気候や生物地理学的イベントを参照することで、それらの種がどのように分布を拡大し、その集団構造を維持するようになったかを考察するというものである。 今年度初頭のコロナウイルス感染症の蔓延状況を鑑みるに、昨年度より状況は回復しているものの、依然として漁業現場でのサンプリングや海外への渡航調査には制約がかかるものと思われる。そこで今年度は比較的新型コロナウイルス感染症の影響が乏しいヨーロッパ諸国とアメリカの研究機関に対してシロカサゴ科および関連する分類群の標本の借用を依頼し、外国人旅行者の受け入れが再開したオーストラリアへの投稿調査を実施することで分類学的研究を進め、市場調査や漁業者への直接依頼により鮮魚を収集し、分子と形態の両視点から本科の系統学的解析を進める予定である。 先述のシロカサゴ科の化石種は側線の構造などは本科の現生種のもつ特徴とよく一致するが、カサゴ亜目において科・属レベルでの変異が乏しい背鰭鰭条数や下尾骨の形態についてはむしろキチジ科のキチジによく似る。近年の分子系統学的研究ではシロカサゴ科とTrachyscorpia eschmeyeri(キチジ科)が姉妹群である可能性を示唆する報告もあり、この化石種の系統学的位置づけを把握するためにはシロカサゴ科のみならずキチジ科との比較検討が不可欠である。今後は分類学的研究により汎世界分布類群の全体構造の把握を進めるとともに、シロカサゴ科とキチジ科の形態学・分子系統学手法による比較検討を行い、汎世界分布種の出現時期の特定を目指す。
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