2021 Fiscal Year Annual Research Report
一般確率論を通した量子論の不確定性・非局所性の更なる理解
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21J10096
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高倉 龍 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 量子論基礎 / 一般確率論 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度前半において,Heisenbergが提唱した不確定性の一般化とみなせる概念である両立不可能性に関する研究を行った。具体的には,量子論における両立不可能性の新たな定量化を提案しその性質を調べた。特にqubit系におけるX測定とZ測定の組が示す両立不可能性が,この定量化の下で特徴的なふるまいを示すことの証明に成功した。本結果は量子暗号などの量子情報処理への応用が期待される。また今回の定量化は量子論において操作的に自然に表れる凸性に基づいて導入された量であり,一般確率論にも拡張可能である。一般確率論への拡張を考えることで,量子論の示す両立不可能性について新たな特徴づけが得られる可能性がある。本結果は指導教員である京都大の宮寺隆之氏およびTurku大のTeiko Heinosaari氏との共同研究で得られたものであり,論文誌(Physical Review A, 104, 032228 (2021))に掲載されている他,国際会議(AQIS2021)にて発表を行っている。 令和3年度後半では,これまでに行ってきた研究を基に,凸性および不確定性をテーマにした博士論文の執筆を行った。この博士論文では,前述の両立不可能性に関する研究および一般確率論における不確定性関係・混合の熱力学エントロピーといったこれまでに発表した結果についての解説だけでなく,操作的に自然な公理から一般確率論の厳密な数学的定式化を導出する過程を詳細に記述した。現在本論文のプレプリントが公開されている(arXiv:2202.13834 [quant-ph])。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度前半は,両立不可能性の新たな定量化に関する研究の完成および発表を行ったほか,一般確率論における不確定性関係・CHSH不等式についてある程度の計算結果を得ることができた。しかし,本年度後半において博士論文の執筆・審査の諸々の手続きに多大な時間を要したため,前期に行っていた研究を当初予定していた通りに発展させることはできなかった。この研究の遅れは次年度において取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在,一般確率論における状態変化(チャネル)のプログラミングについての研究が進行中である。チャネルのプログラミングは元来量子情報プロトコルの文脈で提唱されたものであるが,今回の研究ではその一般確率論への拡張可能性を議論している。すでに主定理および細かな数学的事項に関する証明は完成しており,今年度初めにも論文の執筆および論文誌への投稿を行う予定である。また今回考えた拡張に際し,ある特徴的な構造を備えた状態空間がチャネルのプログラミングにおいて重要な役割を果たすことが分かった。この構造を持つ状態空間は一般確率論における不確定性関係の考察においても有用である可能性があり,今年度中に引き続き詳細な解析を行うことを計画している。そのほか,一般確率論における「最大エンタングルド状態」の特徴を明らかにする研究を行う予定である。特に正多角形理論と呼ばれるクラスの一般確率論での「最大エンタングルド状態」の性質を調べる研究が現在進行中であるほか,その考察を通してより高次元の状態空間における「最大エンタングルド状態」の知見が得られつつある状況である。今後さらに詳細な計算を進め,今年度中に研究の完成および論文の執筆・投稿を行うことを計画している。
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Research Products
(2 results)