2021 Fiscal Year Annual Research Report
A Study on the Beholder's Position in the Theory of Painting: From the Classical Era to the Age of Enlightenment in France
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21J10244
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
村山 雄紀 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 美学・美術史 / 思想史 / フランス古典主義時代 / フランス啓蒙思想時代 / ロジェ・ド・ピール / アンドレ・フェリビアン / ドニ・ディドロ / 観者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は17世紀後半から18世紀フランスにおける絵画言説史を王権やアカデミーの論理を尊重しつつも、観者の立場から再検討するものである。本研究における鍵概念は「化粧」「瞬間」「機械」であり、これらの観点から当該時代における絵画言説を内在的に精読し、ときに外的に位置づけなおしながら、歴史画を最高位とした当時のフランス画壇の位階が徐々に相対化され、肖像画、静物画、風俗画といった下位ジャンルが擡頭する中で誕生した「公衆」の相貌を捕捉することが目的である。 「化粧」の観点からは、画家が眼前の自然をあるがままに模倣するべきであるという自然模倣説をロジェ・ド・ピールを中心として再検討する。ド・ピールはルーベンスの「厚塗り」を「化粧」に喩え、絵画の本質を「眼を欺く」ものであると主張したが、ド・ピールの理論はルネサンスまでの「素描」を中心とした絵画論の布置を組み替えるものであったことを確認し、当該時代における絵画言説の変遷をド・ピールを結節点として抽出することが目的である。 「瞬間」の観点からは絵画、彫刻、詩といった他芸術との位階論争(パラゴーネ)についての言説を分析する。シャルル・ル・ブランは画家は一つの「瞬間」しか描けないと述べたが、絵画における「瞬間」の選択をめぐる議論は当時のカンファレンスで繰り返し論じられ、啓蒙思想時代においてはドニ・ディドロにも継承された論点であったことを確認する。 「機械」の観点からは、画布上における諸要素の統一感を「機械」のまとまりに喩える言説を渉猟することで、画家が構築する「コンポジション」の概念について再検討する。 本研究はこれらの考察を通して、従来は王権の顕彰やアカデミーの文脈で語られることの多かった当該時代における絵画論の変遷を、王権を顕彰する論理から観者の反応を重視する言説への移行として捉え直すことを最終的な目的としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究に必要となる文献や機材を本奨励費を活用することでおおむね揃えることができたため、研究を大幅に進展させることができた。具体的には査読論文3本、学会発表4回を遂行することで、博士論文のための基盤を築くことができた。 発表論文のうち、『早稲田大学文学研究科紀要』(第67輯)に提出した論文では、一般的には王政やアカデミーの側で重要な役割を演じていたアンドレ・フェリビアンのテキストが王権と「公衆」という「二重の宛先」のあいだで引き裂かれていたことについて明らかにすることができた。『表象・メディア研究』(第12号)に投稿した論文では、フレアールからディドロまでの絵画論の系譜をド・ピールを媒介項とすることで抽出することができた。『表象』(第16号)に掲載された論文では、ド・ピールとフェリビアンを中心的に論じることで、両者における作者・自然・肖像の諸概念の変遷を追跡し、当該時代における絵画論の重心が王の栄光の「持続」的な「叙述」から観者の反応を惹起する「瞬間」的な「描写」へと移行していったことを明らかにすることができた。 表象文化論学会での発表ではド・ピールの「技巧」に焦点化することで、ド・ピールの絵画論においては、画家の「技巧」が観者の「眼を欺く」ような「詐術」として定立されていることを確認することができた。近世美術研究会での発表では絵画を「機械」のようにみなす言説をド・ピールからディドロまでの系譜として提示し、画布上に配置された「コンポジション」の概念を再検討した。画布上に「配置」された「機械」のような調和は、ディドロのような「理想的な観者」のまなざしに触れると、画布が自然の一部に取り込まれるような「没入」の状況を出来させることを明らかにすることができた。 これらの論文と学会発表を博士論文の骨子とすることで、本研究課題の最終目標である博士論文の完成へとつなげていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は若手研究者海外挑戦プログラムを併用して、受入研究機関であるリール大学およびパリの国立図書館で在外研究とアーカイブ調査をおこなう予定である。当該分野において、17世紀から18世紀にかけての一次文献はGallicaをはじめとするデータベースで閲覧可能だが、20世紀以降に刊行された二次文献は絶版になっているものも多く、日本においては閲覧・入手が難しいものが少なからず存在する。これらの文献を現地で調査・解読することが渡航の第一の目的である。 さらに本研究は絵画作品についての言説を分析するものであるため、実際の絵画作品を視認したうえでの言説と作品の照合作業が必須となる。本助成を活用して、分析対象となる絵画作品を実際に鑑賞し、デジタルカメラで撮影・保存したものを論文に反映させたいと考えている。 また滞在期間中は受入教員のガブリエル・ラディカをはじめとする当該分野を牽引する研究者の指導・助言を仰ぎ、国際的な学会誌への掲載および国際学会での発表の機会を伺いつつ、今後の研究に有益となる学際関係の構築をめざす。 2022年度の前半はこれまでに発表していない学会誌(『美学』や『日本18 世紀学会年報』など)に投稿し査読論文の数を増やすとともに、後半は既発表の論文に筆削をほどこしながら、博士論文の執筆に着手する。在外研究の期間中に現地でアーカイブ調査をしながら、博士論文完成に向けての調査と執筆を敢行していきたいと考えている。
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