2021 Fiscal Year Annual Research Report
重力レンズによる宇宙の大規模構造と原始ブラックホールから探る暗黒物質の包括的研究
Project/Area Number |
21J10314
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉山 素直 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | すばるHSC / 大規模構造 / 弱い重力レンズ / 原始ブラックホール / マイクロレンズ |
Outline of Annual Research Achievements |
暗黒物質の性質を調べるために、重力レンズを用いた二つのアプローチで研究を行なった。 (A) 弱い重力レンズは宇宙の物質の密度揺らぎによって銀河の形状が系統的に歪められる現象である。私を含むすばるHyper Suprime-Camの研究グループは、銀河の数密度と弱い重力レンズを組み合わせた統合解析を行うことで、物質密度揺らぎの特性と背景宇宙の情報を調べる研究を行った。HSCの初年度の観測で得られた銀河の形状カタログと、SDSS BOSSの分光銀河カタログを用いて、銀河クラスタリングと銀河弱重力レンズの信号を測定した。この信号を摂動論的理論モデルと比較することで、現在の宇宙における物質密度揺らぎのパラメタと背景宇宙の物質密度パラメタの値を推定した。本研究で得られた密度ゆらぎのパラメタは宇宙マイクロ波背景放射の観測(Planck)と比較すると統計精度の範囲で無矛盾であることを確かめた。 (B) 原始ブラックホール(Primordial Black Hole, PBH)は宇宙の初期に作られた可能性のあるブラックホールで、暗黒物質の候補の一つである。もしPBHが暗黒物質であると仮定すると、PBHはコンパクトで重い天体であるため重力レンズ現象を起こし、アンドロメダ銀河の中の星を増光させる。逆にアンドロメダ銀河の中の星のマイクロレンズ現象を調べることでPBHのシナリオを検証することができる。私が主導する研究グループはPBHシナリオの検証を目指して、2020年にすばるHSCを使ってアンドロメダ銀河のマイクロレンズ観測を行なった。初年度はこの観測で得られたデータの画像解析を行なった。また従来の解析では計算量の都合で取り入れられていない、マイクロレンズに対する光源の有限の大きさの効果を高速に計算する手法を開発した。この手法によってこれまでは見逃されていた新しいイベントの検出を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(A) 初年度は宇宙論パラメタ推論のための理論・パイプラインを完成させ、すばるHSCの初年度のデータに適用した。すばるHSCの初年度のデータはシグナルノイズ比があまり高くなかったため強い制限は得られなかったが、次年度以降に行うすばるHSCの3年度および最終年度のデータ解析にも同じ理論・パイプラインを使用するため、これらの成果は今後の研究の土台となる重要な成果である。結果は論文としてまとめ査読中である。 (B) マイクロレンズの理論テンプレートを高速に計算する手法を開発したことで、従来の手法では難しかったマイクロレンズのイベント解析を行えるようになり、新しいイベントを検出できた。また画像解析において最新のパイプラインを使用することで、先行研究に比較して系統エラーの小さい高度曲線の測定を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
(A) 次年度以降はすばるHSCの3年度のデータを用いた解析を行う。初年度の解析に加え、弱い重力レンズの自己相関信号を加えた解析を行う予定である。 (B) 初年度の画像解析・イベント解析の結果を理論と比較することでPBHのシナリオに新たな制限を与える。
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Research Products
(6 results)