2021 Fiscal Year Annual Research Report
Highly efficient magnetic domain wall motion driven by spin-orbit torque in rare-earth free single crystal nitrides.
Project/Area Number |
21J10330
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小森 太郎 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 電流駆動磁壁移動 / 分子線エピタキシー / 窒化物材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(Mn,Ni)Nにおいてスピン軌道トルクを利用した高効率磁壁移動を達成することを最終的な目標としている。このために、報告者は(Mn,Ni)Nの磁気輸送特性の探求、及びスピン軌道トルクの利用に必要な重金属/(Mn,Ni)N/酸化物基板のヘテロ構造の作製という二点で研究を進めてきた。 報告者は、異方性磁気抵抗効果 (AMR)を中心に(Mn,Ni)Nにおける伝導電子と磁性を担う局在電子の関係を調べ、また第一原理計算によってd軌道の状態密度 (DOS)を解析することで、実験結果から得られた考察を裏付けすることを目指した。その結果、伝導電子は(Mn,Ni)Nの伝導電子のスピン分極率はNi組成比によって殆ど変化せず、Mn4Nのそれと同程度の値を保つことが明らかとなった。磁壁移動速度は伝導電子のスピン分極率に比例するため、これは(Mn,Ni)Nでも高効率な磁壁移動が期待される結果となった。 重金属/(Mn,Ni)N/酸化物の構造においては、重金属内で生じるスピンホール効果による(Mn,Ni)Nへのスピン流の注入と、構造反転対称性が破れることによって(Mn,Ni)Nの磁壁がカイラルネール構造をとることで、スピン軌道トルクを活用することができる。このため、報告者は膜厚1~2nm程度の極めて薄い(Mn,Ni)Nエピタキシャル膜を作製し、効率的なスピン流の注入と非対称なヘテロ構造作製を試みた。報告者は(Mn,Ni)Nを成長する分子線エピタキシー装置に電動シャッターを導入することで、膜厚に傾斜の付いたエピタキシャル膜を作製し、その薄膜領域で優れた磁気輸送特性が得られることを確認した。また、この様なヘテロ構造においても巨大で安定した磁区が確認されたことから、今後の電流駆動磁壁移動実験にも期待が持てる結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者は、これまでの期間で(Mn,Ni)Nの物性評価、及び磁壁移動実験を行う上でのヘテロ構造の作製を行った。一方でスピン軌道トルクによる磁壁移動に必要なカイラルネール磁壁の確認や、実際に細線加工をした上での磁壁移動は未だに達成されていない。 報告者は同ヘテロ構造に発生させた磁区に面内磁場をかけて、その磁区の拡大を確認することでカイラルネール磁壁が誘起される要素の有無を確認する手法をとっているが、今のところその要素は確認されていない。また、電流駆動磁壁移動実験については至急取り組むべき課題である。報告者は現在提携大学院かつ共同研究先であるグルノーブルアルプ大/SPINTEC(仏)に留学し、同ヘテロ構造を持つ薄膜の細線加工に取り組んでいる。細線を作製する上では、磁壁移動のトラップになり得る表面粗さの低減や、酸化物基板として用いているSrTiO3をエッチングし過ぎてしまうことで表面に導電性が生じ、細線に電流が流れなくなる現象を抑制するように心がける。 一方で磁壁移動実験を行う上で求められる明瞭な磁区の確認や、磁場による俊敏な磁区の拡大は既に確認されており、ヘテロ構造についてもタングステンやプラチナといった大きなスピンホール効果を有する複数種類の金属について作製に成功している。これらの結果をベースに、磁壁移動実験や磁区構造確認実験を急ぐことで、当研究課題の目的達成を目指す。このことから、報告者は自己点検を上記の様に定めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、当初の目的である電流駆動磁壁移動実験を急ぐ一方で、(Mn,Ni)Nの他の応用用途、更には(Mn,Co)Nといった別のMn系窒化物単結晶材料における磁壁移動の実証も試みる予定である。 (Mn,Ni)Nの磁壁移動実験に関しては、異なる種類の重金属、(Mn,Ni)Nの膜厚を有する複数試料について細線加工を施し、その電流密度と磁壁移動速度の関係性を調べる。また、カイラルネール磁壁は面内磁場の印加によっても誘起されるため、この様な磁場アシストを用いた磁壁移動実験も行い、他の材料との比較を行う。特に磁壁移動が起こる閾値電流密度が10^10A/m^2台にまで下がると、CMOSを利用した集積回路への応用が実現的になるため、大きな達成目標となる。 また、(Mn,Ni)Nでカイラルネール磁壁が構成される場合、スキルミオンと呼ばれる粒子状に振舞う磁気構造が発生することにも期待できる。これらの状態は安定的であり、磁壁移動デバイスと同様にスキルミオンを利用した磁気デバイスの開発も検討されている。(Mn,Ni)Nにおける高効率な磁壁移動は、低電力でのスキルミオンの移動にも繋がることが予想されるため、スキルミオンを活用した新規デバイスへの応用も視野に入る。 (Mn,Ni)Nで想定されるような結果が得られなかった場合は、代案として(Mn,Co)Nによる電流駆動磁壁移動に取り組む。(Mn,Co)Nも(Mn,Ni)Nと同じく補償点を有するフェリ磁性材料であり、報告者は既に(Mn,Co)Nにおいても安定した巨大磁区が存在することを確認している。
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Research Products
(5 results)