2021 Fiscal Year Annual Research Report
生息環境に応じて生じた生活史変異に駆動される遺伝動態:進化生態学の新展開
Project/Area Number |
21J10814
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
都築 洋一 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 生活史 / 多年生草本 / デモグラフィー / 遺伝的多様性 / 個体群行列モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道十勝地方に生育する多年生植物オオバナノエンレイソウを対象に、環境要因が生活史スケジュールの変化を介して遺伝的多様性や進化動態に与える影響(計画1)、及びその重要性(計画2)、先行研究との整合性(計画3)を解明する。 まず計画1について、2021年4~5月及び7月に北海道十勝地方の12集団を対象に野外調査を実施した。野外調査では、2018年から設置している計41個の調査区において、個体のマーキングと生育段階の記録をおこなった。併せて、全天開空度や気温、土壌特性などの環境条件を測定した。また、2021年5月に11集団から試料(葉)を採取した。2021年6月~10月にかけてddRAD-seq法によるSNPの抽出を試みた。その結果、SNPが当初の予想よりも少数しか抽出できず、計画していた遺伝的多様性や有効集団サイズの推定ができなかった。そこで実験プロトコルを変更して、よりハイスループットなDNB-seqを用いたシーケンスを実施した。2022年1~3月に順次シーケンスを終えることができ、今度は十分なSNP数を得ることができた。簡易的な解析の結果、集団ごとに遺伝的分化がみられること、その遺伝的分化は地理的距離を反映していること、遺伝的多様性や有効集団サイズは生育個体数に必ずしも比例していないことがわかった。 計画2については、生活史と集団サイズの相対的重要度を評価するために先行研究を参考に理論式を導出した。式導出過程の正しさを数理生物学の専門家に確認してもらった。この成果は現在プレプリントで公開し、かつ学術誌で査読中である。 計画3について、計画2で得られた理論式を数値解析して、どのような生活史を持つ植物で遺伝的多様性が高く維持されるのかを明らかにした。その結果、長寿で成長速度が遅い種で遺伝的多様性が高いという、先行研究と一致する結論に至った。本成果は現在学術雑誌で査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画1で実施する野外調査については、まず当初の予定どおり、4-5月に個体追跡、環境条件測定、7月に種子採取を終えることができた。遺伝解析に関しては最初は予定通りには進まず、11月時点では十分なデータ量のシーケンス結果が得られなかった。そこで実験プロトコルを変更したところ、12-3月の間に十分量のデータを得て、かつ当初は2年に分けてシーケンスする予定だったサンプルを、すべて年度内にシーケンスすることができた。まだ得られたシーケンスデータの解析が残ってはいるものの、全体でみると予定よりも順調に進捗しているといえる。しかし実験プロトコルの変更に伴い、当初の予定よりも予算が多くかかってしまった。そのため、計画3で翌年度に実施する予定だった複数種遺伝解析は取りやめて、数理モデルを用いた理論解析を実施することとした。理論解析については計画2と連動して進めている。計画2と計画3は、モデルの構築と数値解析を終えており、得られた結果は論文執筆と投稿にまで至っている。当初よりも進捗が進んでいる部分(計画1)と、計画変更のために内容が少なくなっている部分(計画3)、予定通りの部分(計画2)があり、押しなべて見るとおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
計画1について、昨年度同様に個体追跡調査(5月)と種子採取・計数(7月以降)を実施する。その後、それまでの年度で累積して得られた個体追跡データ・種子数データを統計解析することで、成長率や繁殖率などのパラメーターを推定し、集団間の生活史変異を定量的に示す計画である。今のところ、最終年度の調査・統計解析に向けて、現状順調にデータ取得が進んでいる。遺伝解析で得られたシーケンスデータについて、今後は条件を検討しながらSNPの抽出と遺伝的多様性・有効集団サイズの推定を進めていき、個体追跡・種子計数で得られた生活史の集団間変異の影響を評価する予定である。 計画2については、構築済みの理論モデルを用いて、計画1で得られた生活史変異、および集団サイズから予想される遺伝的多様性の変動を算出し、生活史と集団サイズの相対的重要性を評価する。 計画3については、これまでに実施した理論解析の結果が先行研究の傾向と合致することは確かめている。この結果の論文受理を目標に、現在査読中の原稿の改訂と再投稿を続ける。並行して、理論解析の結果が計画1で得られた実証データとも合致するのかを検証することで、先行研究と本研究の一致性を総合的に判断しようと考えている。
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