2021 Fiscal Year Annual Research Report
大環状ピレン骨格を基盤とした湾曲ナノカーボンの精密合成
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21J10816
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
黒崎 澪 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | ピレン / 大環状分子 / ナノグラフェン / アトロプ異性体 / 構造変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
中心に空孔を有するナノグラフェン (ホーリーナノグラフェン:HNGn) は、結晶中でカラム状に積み重ねることで中心にチャネルを形成し、電極材料などへの応用が期待できる。令和3年度は、平面および湾曲したHNGnの合成を目指し、前駆体となる4,10-直接結合型環状ピレン多量体(vCPn)の合成を行った。本報告内容の一部を第31回基礎有機化学討論会およびPacifichem 2021にてポスター発表を行った。 一連の4,10-直接結合型環状ピレン多量体vCPnは、5,9-ジヨードピレンのNi(cod)2を用いたカップリング反応により合成し、6量体から10量体を単離することに成功した。それぞれのvCPnはペリ位 (1,3’位) の水素同士の反発により固定化されており、複数のアトロプ異性体をもつことが明らかになった。合成直後のvCP6はCs対称性をもつことを、1H NMRおよび単結晶X線構造解析により明らかにし、固体状態で260℃、48時間の加熱により徐々にD3d対称性をもつ構造へと変化することを確認した。vCP7は2種類のC2対称性をもつ構造として得られ、260℃、1時間の加熱で、一方の構造へと収束した。さらに、合成直後のvCP8の主成分はCs対称構造を示し、同様に加熱によってCs→D2d→D4dと低対称構造から高対称構造へと変化することを明らかにした。 また、合成したvCPn (n = 6, 7) の酸化的縮環反応を様々な条件で検討した。酸化剤として塩化鉄または2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン (DDQ) を用いた反応では2から4箇所の縮環反応が進行した。6および7箇所の反応点を一気に縮環することが困難であった。このため、今後は段階的な反応によりホーリーナノグラフェンの合成を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ホーリーナノグラフェンHNGnの前駆体となる一連の4,10-直接結合型環状ピレン多量体vCPnは、5,9-ジヨードピレンのNi(cod)2を用いたカップリング反応により合成に成功した。さらに、塩化鉄や2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン (DDQ) を用いた酸化的縮環反応により、HNGnを合成する反応も検討を始めている。令和3年度は、単離に成功した前駆体vCP6からvCP10のうち、vCP6とvCP7について縮環平面化反応を試みたが、完全には反応が進行せず、部分的な縮環にとどまった。そのため、HNGnの合成を段階的な反応へと別のルートも視野に進めている。 また、合成したそれぞれのvCPn (n=6-10) はペリ位 (1,3’位) の水素同士の反発によって固定化され、複数のアトロプ異性体をもっていることが1H NMRおよび単結晶X線解析により明らかとなった。そこで、当初予定になかったvCPnの異性化実験を実施した。低対称な構造は加熱によって高対称な構造へと変化することを確認し、1H NMRによる活性化エネルギーの算出や吸収・蛍光スペクトルの測定など、より詳しい調査を行った。環サイズに応じて異なる異性化速度を示し、特に環サイズの小さなvCP6は固体状態で260℃、48時間で高対称 (D3d) 構造へと変化することを見出した。これらの結果については、国際会議 (Pacifichem 2021) および国内会議 (第31回 基礎有機化学討論会) で第一著者として発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、これまでに合成した4,10位直接結合型環状ピレン6量体(vCP6)および7量体(vCP7)の酸化的縮環により、中心に空孔を有する平面および湾曲したナノグラフェンHNGn(n=6または7)の合成を行う。vCPnの縮環は、Scholl反応やFriedel-Crafts反応等、様々な条件を検討する。生成物は単結晶X線構造解析によりその結晶構造およびパッキング構造を明らかする。平面と非平面のHNGnのパッキング構造や光特性、酸化還元電位、芳香族性の違いを詳細に検討する。また、粉末X線回折とRietveld 解析を用いて集積構造・性能相関研究を行う。HNGnの前駆体であるvCPnについて、アトロプ異性体の単離と熱変換の解析を行ったので論文にまとめる。 次に、Ni(0)によるホモカップリング反応を応用して、ジブロモベンゼンを2つもつピレンの三量化反応に挑戦し、球状π共役ピレン三量体の構築を目指す。すでにアルキン4置換ピレンまでの合成ルートを確立しており、今年度はビストリメチルシリルアセチレンとの芳香環化とトリメチルシリル基のブロモ化、それに続く山本反応の検討を行う。 最後に、1,8位直接結合型環状ピレン多量体(CPn)のそれぞれのピレンをベンゼン環1個分π拡張したCBPnを原料として用いることで、山本反応により径だけでなく長さも一義的に決まったアームチェア型CNTの合成を目指す。nが偶数のCBPnから、縮環反応により筒型カーボンナノチューブCNTnをワンポットで合成し、ベルトの幅が大きいカーボンナノベルトの合成を実現する。得られた化合物の単結晶X線構造解析を行うことでその結晶構造を明らかにする。また、CNTの直径の違いにより歪みエネルギーが異なるため、歪みの効果による物性の変化を吸収・蛍光スペクトルや電気化学測定、芳香族性の評価を行うことにより議論する。
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Research Products
(2 results)