2021 Fiscal Year Annual Research Report
Calculation of Thermal Conductivity of Silver Chalcogenides by Machine Learning based on First-principles Molecular Dynamics
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21J10836
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
福島 省吾 熊本大学, 熊本大学大学院自然科学教育部理学専攻, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 分子動力学法 / 第一原理計算 / 機械学習 / 超イオン導電体 / 熱伝導 / 熱ダイオード / 相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、熱整流効果が実験的に確認された銀カルコゲナイド系の熱力学的性質を調査し、熱整流効果の微視的機構を解明することを目的としている。第一原理分子動力学(FPMD)法に基づく計算機シミュレーションにより銀カルコゲナイド系の熱力学的性質を調べると同時に、そのデータに基づいて構築された人工ニューラルネットワーク(ANN)ポテンシャルを用いて、熱整流効果の再現を目標としている。 本年度は、FPMDシミュレーションに基づいてセレン化銀(I)の昇温による相転移の再現を試みた。これまでの我々の研究から、銀原子の持つd電子によるオンサイトクーロン相互作用が重要であることが明らかとなっていたが、それだけではなくファンデルワールス相互作用も重要であることが新たに分かった。詳しい原理はまだ明らかになっていないが、Ag原子間またはAgクラスター間のファンデルワールス相互作用が正しく取り入れられたのではないかと推測している。 また、我々は同時にAg2S0.6Se0.4を対象にANNポテンシャルによる静的及び動的性質の再現を試みた。我々の研究グループでは、始めに非超イオン導電相におけるAg2Seの熱伝導度を精度良く再現する手法を模索し、実験値を最も良く再現する手法を確立していた。この手法に基づいてANNポテンシャルを構築したところ、構造の再現はできたが、得られた熱伝導度は実験値よりも過大評価された。この原因として、これまでとは異なり3種類の元素からなる系であることに加えて、熱伝導度を評価するにはFPMDシミュレーションの精度がまだ不十分である可能性が考えられる。そのため、ANNポテンシャルの構築手法の更なる改善や、先述のファンデルワールス相互作用を取り入れること等によって、得られる熱伝導度の精度が向上されると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、FPMDシミュレーションによりセレン化銀(I)をはじめとした銀カルコゲナイド系の相転移現象を再現し、その微視的機構の解析を行うと同時に、ANNポテンシャルによる熱伝導度の計算も着手する予定であった。しかし当初行っていたFPMDシミュレーションでは正しく相転移現象を再現することができなかったため、計算手法及び条件の再検討が必要となった。加えて、Ag2S0.6Se0.4を対象にANNポテンシャルを構築し得られた熱伝導度も実験値より過大評価された。この原因は先述のFPMDシミュレーションの計算条件の可能性もあるが、ANNポテンシャルの構築方法も改善する必要があると考えられる。 また、当初は共同研究のために留学を検討していたが、新型コロナウイルス感染拡大の情勢を考慮して延期を繰り返していた。主な目的は、見識を広げつつ最先端のシミュレーション手法を学ぶことであった。渡航するまではZoomを用いてオンラインで議論を行っていたが、本格的に共同研究を始められたのは渡航後であった。 本年度の研究結果については現在論文を執筆中であるが、以上の理由により、現在までの達成度は「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度行ってきた研究から、FPMDシミュレーションに基づいて銀カルコゲナイドの静的及び動的性質、特に相転移現象を再現するために必要な計算条件が明らかになったため、今後はFPMDシミュレーションによる解析を行い、ファンデルワールス相互作用の導入による改善の原理を調べる。具体的には、結晶構造や銀原子の拡散機構、電荷及び電子状態等をファンデルワールス相互作用の有無で比較を行っていく。また、ANNポテンシャルにより得られる熱伝導度の精度を向上させるために、前述のファンデルワールス相互作用の導入や系のサイズ(原子数)の増大、及びANNポテンシャルの構築方法の改善等を検討している。
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