2021 Fiscal Year Annual Research Report
紀伊半島における木材生産の圏域化計画と大災害への木造仮設住宅供給システムの構築
Project/Area Number |
21J10995
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 和典 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | 林業 / 木材業 / 木材生産構造 / 木造仮設住宅 / ネットワーク / 圏域 / 地域構造 / 紀伊半島 |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究は、紀伊半島の木材生産からみた地域構造を読み解き、(1)日常時の木材生産圏域、(2)非日常時の木造仮設住宅供給圏域、の2つを明らかにすることによって、(3)日常と非日常を重ねた木材生産の圏域化計画、を行うことが目的である。 本年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、対象地へ赴いて行う調査が困難である時期が長く続いた。そのため、ヒアリング中心の調査から切り替え、データや文献による調査と、科研研究の最終報告に向けた理論の成熟を中心に据え、査読付き論文の投稿などを行い、研究を進めた。 まず、各地域の林業・木材業に関する資料や書籍を収集・購入することによって、各地域の林業・木材業の歴史を明らかにし、木材生産構造の大枠を捉えることに努めた。これは、(1)の木材生産圏域を明らかにする基礎としている。また、来る南海トラフの浸水域に関するデータや紀伊半島各市町村の被害予測等を収集し(2)の木造仮設住宅供給圏域の蓄積も得た。2022年度にヒアリングによって得られなかったデータを補完し、(3)の圏域化計画について考察する予定である。 理論の成熟としては、日本建築学会の査読付き論文に、木材生産からみた地域構造を読み解く理論についてまとめ投稿した。その内容は、紀伊半島を代表する林業・木材業産地である和歌山県田辺において、江戸時代から続く老舗木材生産事業者を中心とした木材生産構造の変遷を明らかにしたものである。事業者間のネットワークを分析することで、木材生産構造の変遷を把握し、日常時の木材生産圏域を分析する手がかりを見出した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、紀伊半島を7つのエリアに分け、(ハ)北山・熊野地域、(ニ)尾鷲林業地域、(ホ)松阪市周辺、の3地域を対象に上記(1)、(2)、(3)の調査を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、対象地へ赴いて行う調査が困難である時期が長く続いた。 特に、(1)日常時の木材生産圏域の調査について、実地でのヒアリング調査の回数は大きく制限された。ヒアリング調査によって明らかになる林業・木材業者の取引関係や生産量を把握することはできなかったが、各地域の林業・木材業に関する資料や書籍を収集・購入することによって、各地域の林業・木材業の歴史を明らかにし、木材生産構造の大枠を捉えることに努めた。2022年度に調査に赴きデータを補完する予定である。また、(2)非日常時の木造仮設住宅供給圏域は、国や地方自治体が公開しているデータを対象として調査を進めた。南海トラフ地震における津波浸水域や住宅被害の想定を、GISを用いて地図上にプロットし、被害状況の整理を行った。以上の調査はⅠ、Ⅱ、Ⅲの対象地にとどまらず、紀伊半島全域(奈良、三重、和歌山の三県の各市町村)で行った。2022年度に、補完した(1)のデータから、来たる南海トラフ地震が発生した際に必要となる木材量や供給可能な木造仮設住宅戸数を算出する予定である。 また、研究内容の成果として日本建築学会の査読付論文への投稿や大会研究協議会資料への寄稿を行い、理論の成熟を図った。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1) 日常時の木材生産圏域:行政・組合へのヒアリングと地域の歴史や林業・木材業に関する書籍・資料から、地域の木材生産能力や木材需要を把握する。また、林業・木材業者へのヒアリングから、業者の社会的ネットワークや地域構造を把握する。紀伊半島3県の市街地から山奥までの広範囲へ赴くため、主に車で移動し1泊2日で計15回の調査を行う。以上から「木材流通ネットワーク図」、「地域構造図表」、「木材需給表」を作成する。 (2) 非日常時の木造仮設住宅供給圏域:被災想定と(1)での調査結果から、被災時の木材供給能力と木材仮設住宅需要を把握する。上記を踏まえ、「被災マップ」、「木造仮設住宅建設のための木材需給表」、「木材供給拠点」を作成する。 (3)日常と非日常を重ねる圏域化計画:以上の調査結果から、日常時と非日常時の木材生産・供給構造を示す「圏域図」を作成する。日常時の木材生産や非日常時の事前復興に対する圏域化の有用性を検証し、適宜改良していくため、復興や建築生産、林業・木材業に関する書籍の購入による理論の成熟や、紀伊半島3県の行政・組合・組織・業者とワークショップや意見交換を行い、圏域化計画の精度を高める。研究内容を博士論文にまとめ、学会発表を行い、国・県・市町村等の行政や、森林組合・木材協同組合・組織・業者に対し圏域化計画を提案する。 昨年度は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、調査を大きく制限された。特に、各事業者へのヒアリングを必要とする(1)の「木材流通ネットワーク図」と、それを基に作成する(2)の「木造仮設住宅建設のための木材需給表」の作成を行うことができなかった。本年度は、(ハ)北山・熊野地域、(ニ)尾鷲林業地域、(ホ)松阪市周辺を対象に、(1)、(2)の未調査項目を実施する。調査済みの地域と合わせて、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)の地域で(3)の圏域化計画を行う。
|