2021 Fiscal Year Annual Research Report
プロトンの量子効果と反応場の能動的制御に立脚した錯体触媒の開発:理論と実験の融合
Project/Area Number |
21J11068
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小杉 健斗 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
Keywords | 二酸化炭素還元 / 電気化学 / 金属錯体触媒 / プロトン移動 / 溶媒効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では金属錯体触媒をベースとして理論と実験の融合研究を展開し,「プロトンの量子効果」と「反応場の効果」の能動的制御,ならびに多電子・多プロトン移動反応のメカニズム解明を目指している.メカニズム解明の足掛かりとして多電子・多プロトン移動系の代表例である二酸化炭素還元反応を扱う.本年度は「反応場の効果」に注目した研究を主体的に行った.鉄ポルフィリン錯体(iron(III) tetraphenylporphyrin)を用いて電気化学的条件下で触媒活性の溶媒依存性を調査し,触媒活性が溶媒種に大きく影響されることを明らかにした.分光電気化学測定によって,反応機構が溶媒によって変化することも示唆された(研究成果:Angew. Chem. Int. Ed., 2021, 60, 22070-22074.).また,銅ポルフィリン錯体(copper(II) tetrakis(pentafluorophenyl)porphyrin)を用いた電気化学的二酸化炭素還元反応においても,溶媒種が触媒活性に大きく影響することを明らかにした (研究成果:Chem. Commun, 2022, 58, 2975-2978.).「プロトンの量子効果」に注目した研究に関しては,研究の基盤となるヒドロキノン配位子を有する新規鉄ポルフィリン錯体(5,10,15-triphenyl-20-(2,5-dihydroxyphenyl)porphyrinato iron(III) chloride)の合成に成功し,その電気化学的性質を調査した(研究成果:Chem. Lett, 2022, 51, 224-226.).
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2021年度は「反応場の効果」に注目した研究に関して大きな進展があった.具体的には鉄ポルフィリン錯体(iron(III) tetraphenylporphyrin)を用いた電気化学的二酸化炭素還元反応に対する,触媒活性の溶媒依存性を調査した.その結果,触媒活性が溶媒種に大きく影響されることを明らかにした.アセトニトリル中での活性向上は特に顕著であり,触媒回転頻度は従来系(N,N-ジメチルホルムアミド中)と比較して6万倍以上,向上した.これは,電気化学的二酸化炭素還元反応において反応場の効果の重要性を示す成果である.展開例として,銅ポルフィリン錯体(copper(II) tetrakis(pentafluorophenyl)porphyrin)を用いた電気化学的二酸化炭素還元反応の調査も行い,鉄ポルフィリン錯体と同様にアセトニトリル中で触媒活性が向上することを明らかとした.さらに,「プロトンの量子効果」に注目した研究の基盤となる,ヒドロキノン配位子を有する新規鉄ポルフィリン錯体(5,10,15-triphenyl-20-(2,5-dihydroxyphenyl)porphyrinato iron(III) chloride)の合成にも成功した.これらの成果は全て学術論文として出版済みである.以上の理由から,本研究課題は当初の計画以上に進展していると判断する.
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,2021年度に合成に成功したヒドロキノン配位子を有する新規鉄ポルフィリン錯体(錯体1)を用いて, (1)光化学的二酸化炭素還元反応触媒としての機能評価を行う予定である.次に,(2)活性中心の第二配位圏におけるプロトン・電子応答性サイトが触媒活性に与える影響の調査を行う予定である.まず,(1)の計画について説明する.昨年度の予備的検討において,錯体1,二酸化炭素,犠牲還元剤,光増感剤,そしてプロトン源が存在する条件において光化学的に二酸化炭素還元反応が進行することを確認している.本年度は昨年度得られた反応場の効果の知見を基に,触媒活性ならびに耐久性が最も向上する条件を検討する.次に(2)について説明する.計画(1)で最適条件を決定したのちに,第二配位圏におけるプロトン・電子応答サイトの効果を調べるための対照実験を行う.具体的には,プロトン・電子応答性サイトを有さない錯体(錯体2)とプロトン応答サイトのみを有する錯体(錯体3)を合成し,それらの触媒活性を評価する.続いて光照射のもとで分光測定を行い,スペクトル変化を観測することで反応追跡を行う.また,分光電気化学測定も行い,スペクトル変化と電位の関係を調査する.計画(1),(2)で得られた成果は学術論文として公表する予定である.
|
Research Products
(5 results)