2021 Fiscal Year Annual Research Report
ポリ酸を基盤とした高速イオン輸送を可能とするモレキュラーアロイ結晶の創製
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21J11082
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩野 司 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | ポリオキソメタレート / ポリマー / 水素結合 / プロトン伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は高プロトン伝導体創製を目指し、異なる電荷を持つポリ酸からなるモレキュラーアロイ結晶のバルク合成に取り組んだ。採択前の予備的検討において、モレキュラーアロイ結晶の単結晶合成に成功したが、今年度の検討により副生成物として単一ポリ酸からなるイオン結晶が析出してしまい、モレキュラーアロイ結晶のみを単離することは困難であることが分かった。 そこで視点を変えて、異なる電荷のカチオンからなるイオン結晶の合成を試みた。ポリ酸とカリウムイオン(K+)からなる結晶骨格中に、周囲に水が多数配位することが知られるランタノイドイオン(Ln3+)とプロトンキャリアとしての役割が期待できるポリアリルアミン(PAA)を導入した結果、先行研究の1.5倍のプロトン伝導度を示した。加湿条件下の赤外分光測定を行ったところ、水素結合ネットワークの解離を示唆する水の分子間振動を観測し、これが高い伝導度の要因になっていることを見出した。 次に配位柔軟性を持つ多価カチオンの1つであるビスマスイオン(Bi3+)に着目し、ポリ酸と配位様式の異なる単核ビスマス錯体からなるイオン結晶を合成した。ポリ酸と単核ビスマス錯体を複合化することで、3種類の結晶多形を含む7種類のイオン結晶の合成に成功した。またプロトン伝導度を測定した結果、構成要素が同一のイオン結晶では、加湿した際により多くの水分子を細孔内に取り込むことが出来る空隙体積が大きいイオン結晶が高いプロトン伝導度を示すことを見出した。また、第3級アミンがプロトンアクセプターとして機能すると考えられるDMF配位子を含むイオン結晶はDMSOを含むイオン結晶よりも高いプロトン伝導性を示すことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題では今年度、ランタノイドイオンと結合したポリ酸を共同研究により初めて開発し、イオン結晶の細孔内の水分子の分子間振動が高いプロトン伝導性に寄与していることを見出した。また、ランタノイドイオンの導入により高温高湿条件下での構造安定性が向上することが明らかにした。本研究では、イオン結晶の利点を生かし開発した化合物の組成、構造及び機能の相関を調査することに成功した。従って本研究はプロトン伝導の学理を発展させたため、将来のプロトン伝導体設計に貢献しうる大変有意義な研究であると言える。 次に、静電相互作用による構造安定性の向上が期待できる多価カチオンとカチオンの周囲に配位した分子に着目し、配位子が異なる配位状態をとることが知られる単核ビスマス錯体とポリ酸からなる新規イオン結晶を合成した。その結果、合成条件の検討により結晶多形を作り分けることに成功した。このようなポリ酸を基盤とした結晶多形に関する研究は、化合物の物理的、化学的性質を制御できるため、無機材料の新規機能開拓に貢献し得る研究であると考えられる。 以上の点から本課題では提案した研究テーマを順調に進めつつも、そこで得られた知見から機能性材料開発に貢献し得る結晶多形の研究を副次的に展開できたため、「当初の計画以上に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題では今年度、適切なポリ酸と対カチオンの選択により、戦略的なプロトン伝導性の向上に成功した。今後はこれらのイオン結晶にポリマー分子を導入することにより、プロトン伝導性の高機能化を目指す予定である。現在複合化を予定しているポリマーは二種類ある。 一つ目は、親水性ポリマーのポリビニルアルコール(PVA)である。高いプロトン伝導性を実現するためには、結晶細孔内で水分子が密な水素結合ネットワークを形成することが重要である。PVAとの複合化により細孔内に水分子の導入量が増えるため、より密な水素結合ネットワークを形成し、プロトン伝導が効率化することが期待できる。 二つ目は、部分的に尿素化したポリアリルアミン共重合体である。プロトンキャリアとなる分子数を増大させることは、高いプロトン伝導性に寄与することが知られている。特にアンモニウムイオンは水に代わるプロトンキャリアとしての役割を果たすことが期待されている。そこで、加水分解によりアンモニアが生成する尿素を複合化することを考えた。具体的には、細孔内に部分尿素化ポリアリルアミン共重合体を導入後、酸性条件下で尿素を加水分解させることにより、細孔内部でアンモニウムイオンを生成させる。このアンモニウムイオンがプロトンキャリアとしての役割を果たし、高プロトン伝導性に寄与すると期待される。将来的には尿素の変性率を増大させたポリマーとの複合化も検討する予定である。 以上二つのポリマーを昨年度開発したLn3+と結合したポリ酸と複合化することにより、更なるプロトン伝導性の向上を目指す。
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Research Products
(6 results)