2021 Fiscal Year Annual Research Report
微細粒子の低温固相合成法による新規固体電解質の創出
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21J11152
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井藤 浩明 北海道大学, 大学院総合化学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 固相反応 / その場X線回折測定 / 固体電解質 |
Outline of Annual Research Achievements |
低温では拡散速度が低いため、固相合成は高温の加熱を必要とする。本研究は高い拡散速度が期待される化合物の微細粒子を用いて、低温固相反応により高温加熱で合成されていない低温安定相や準安定相を含む新規固体電解質の創出を目指す。具体的には1)クーロン引力が小さく拡散速度の高い一価の塩と物質拡散が容易な構造を持つ化合物の利用と2)微細粒子を用いた拡散距離の低減および粒子間の接触点の増加の2つの手法を採用し反応速度を高めることを目指している。 これまでにLiClとYCl3からLi3YCl6が生成する反応のin-situ放射光XRD測定を行い、RIETAN-FPを用いたリートベルト解析によって温度ごとに生成相の結晶構造や相分率を解析した。その結果、Li3YCl6の新規多形(β相)を発見し既知α相に相転移することを確認した。結晶構造中において、α相と比較してβ相はLiとYがより無秩序化しており格子定数aが1/√3となった。また、既知相との結晶構造の比較から結晶構造中のYの占有率がc軸方向に不均一化することで相転移が進行することが明らかとなった。 さらにVASPを用いてLi3YCl6の生成エンタルピーを計算し、β相の結晶構造中において各原子があるサイトからそれぞれの空孔へ移動する際の移動障壁を求めた。この結果、結晶構造中におけるYの移動障壁が相転移反応の活性化エネルギー一致した。また、単相に近いβ相の試料を合成し中性子回折からZ-Rietveldを用い結晶構造を決定し、交流インピーダンス測定からLiイオン伝導度を評価し既知相と比較して高いLiイオン伝導度と低いイオン伝導の活性化エネルギーが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに高いイオン伝導度を示す新規固体電解質の多形を発見し、相転移の過程を明らかにしたことから研究状況がおおむね順調に進展しているとした。 具体的にはLiClとYCl3間の固相反応をin-situ放射光XRD測定を用いて観察し、熱力学的に準安定なLi3YCl6の新規多形を発見した。また、中性子回折測定から結晶構造を決定し、実験および計算の両面からY3+の動きが熱力学的に準安定なβ相を速度論的に安定化したことが明らかとなった。さらに発見した多形(β相)は既知相と比較して一桁高いLiイオン伝導度を示し、イオン伝導の活性化エネルギーが低いことを論文として発表した。 以上の結果は新規固体電解質を創出する本研究の目標を達成した一例となりうる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた結果では一つの昇温速度で反応のモデルを仮定し解析を行った点が問題である。本年度は一定温度における反応の時間変化のその場観察や昇温速度を変化させた際の反応過程の観察を通して反応の活性化エネルギーを算出し、反応のモデル化を行うことを目的とする。また、熱力学的準安定相が安定相に相転移する過程の定量的な評価を行ってきたが準安定相が生成する条件は不明である。そこで加熱下において出発試料粒子の外形や各元素の分布の変化から反応の考察を行うことや圧力印加下での加熱により準安定相の単相に近い試料の合成を検討している。 具体的な実験内容として、本年度の前半に放射光施設で複数回の昇温および加圧実験を行う。これまでの測定結果と合わせて、Li3MCl6系についてまとめた論文を作成する。また加圧等により単相の試料が得られた場合にはLi3YCl6の際と同様にイオン伝導度の測定や電池の作製を通して電気化学的な評価も行う。 さらに、本年度中に指導教員が加熱ステージを備えた走査型電子顕微鏡を導入予定であるため、本年度の後半はLi3LnCl6系塩化物の合成の最終的なまとめに加え、加熱下で出発試料粒子の形態や各元素の分布の変化から反応の考察を行う。塩化物は吸湿性が高いため拡散対を用いた拡散係数の導出が困難であるため、形態の変化速度から拡散係数を定性的に推測することが可能となり生成反応の理解につながると期待できる。
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