2021 Fiscal Year Annual Research Report
連続回転式低温半波長板による高精度インフレーション探索
Project/Area Number |
21J11179
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 恭平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 宇宙マイクロ波背景放射 / 宇宙背景放射 / 原始重力波 / 偏光 / 偏光変調器 / 半波長板 / インフレーション / ダークマター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではインフレーション起源の重力波の強さを表すテンソル・スカラー比rに対してσ(r)<0.01の制限を与える事を目的とする。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の高精度偏光観測において系統誤差の低減に重要な役割を果たす連続回転式低温半波長板を中心とし、ハードウェア開発とデータ解析の両面から研究を行う。次世代地上CMB観測実験Simons Observatory実験(SO)のための直径約500mmの大口径偏光変調器の回転機構の開発と世界初となる磁気浮上する半波長板の温度・位置の極低温完全非接触モニターの開発により、偏光変調器の詳細な性能評価を行う。さらにその成果を最先端の現行実験であるSimons Array実験(SA)のデータ解析に還元する。本研究によりハードウェア開発と実データ解析の両方の視点を反映した次世代の高精度CMB偏光観測手法を確立する。 SOのための連続回転式低温半波長板の回転機構の開発は、東京大学の試験環境で回転周波数・回転角読み出し精度・発熱の3つの基本的な要求性能を達成した。また、低温LC共振器センサーにより完全非接触で低温半波長板の3次元的な位置と温度を測定する機構を実機に塔載・実証した。構築した回転機構とその制御システムすべてを米国Princeton大学に輸送し望遠鏡受信機に統合し、正常に動作することを確認した。 SAは令和2年度末より連続回転半波長板を導入した観測を開始した。惑星観測の解析を中心とし、令和3年度中に物理解析に必要な初版の較正結果一式を共同研究者に提供出来た。焦点面上の検出器位置・特性と読み出しチャンネルの完全な対応マップの作成、半波長板の導入による焦点ずれの補正の確認、惑星の信号強度を参照したゲイン較正に用いる人工較正光源の絶対温度の評価を完了した。また、これらの較正結果を連続回転式半波長板の効果を導入した時系列データに適用する枠組みを構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
SOの装置開発では予定通り令和3年度中に連続回転式低温半波長板の回転機構の開発・試験を完了した。また、回転機構の特に新しい開発要素として、低温LC共振器センサーにより完全非接触で低温半波長板の3次元的な位置と温度を測定する機構を実機に塔載・実証した。回転機構のハードウェア・制御機器の全てを米国のPrinceton大学に送り、望遠鏡受信機内で超伝導検出器と合わせて回転機構を正常に動作させ、回転機構が検出器に及ぼす影響を評価した。 SAのデータ解析については令和3年度中に物理解析に必要な初版の較正結果一式と較正結果を時系列データに適用する枠組みを共同研究者に提供できた。現在連続回転式半波長板の効果を導入した時系列データから生成した天球上のマップを解析するソフトウェアの共同開発が進行中である。 以上の理由から、当初の計画以上に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度までに作成したSAの較正データと連続回転式常温半波長板の効果を導入した時系列データの解析ソフトウェアを元に、CMBの観測技術を用いた暗黒物質探索に方針を転換する。特に宇宙の小スケール問題から注目されているultra-light axion-like particle (ALP)の探索を行う。ALPは光子と相互作用し、ALPの場を伝搬する光子の偏光をわずかに振動させる。本研究ではCMBの観測に於いて較正のために観測されてきたかに座星雲に注目する。かに座星雲はCMBの周波数領域で特に明るい偏光光源であり、その観測から偏光角の絶対較正が行われてきた。SAとその前世代実験のデータを用いて、一日から数年の時間スケールでかに座星雲の偏光角の時間変動を評価し、ALPの探索を行う。検出器の時定数、望遠鏡の視線方向の較正、光学素子や検出器の非線形性により生じる偽の偏光が偏光角の系統誤差となるため、それらを評価する。解析と同時進行で、従来の較正観測としてのかに座星雲の観測頻度、望遠鏡のスキャンの速さ・荒さといった観測ストラテジーを物理観測として最適化していく。近年のCMB解析で用いられてきたブラインド解析を、かに座星雲の時間変動の探索に適用するフレームワークを構築し、1e-21 eVから1e-20 eVの質量領域でALPを探索する。
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