2021 Fiscal Year Annual Research Report
非平衡開放多体系における非ユニタリー量子臨界現象に関する理論的研究
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21J11280
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 徳文 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 非ユニタリー量子臨界現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境との相互作用が引き起こす異常な非ユニタリー臨界現象の実現と物理的メカニズムについて研究を行った。環境自由度とみなされる補助系と相互作用するシステムについて、補助系の状態を測定した結果に基づいて条件づけられた時間発展に着目することによって、非ユニタリー臨界現象の典型例であるYang-Lee端特異性を実現できることを発見し、具体的なセットアップを提案した。その上、補助系がそのような特定の条件を満たす確率に基づいて、異常な振る舞いを物理的に自然な形で理解できることも発見した。この成果によって、従来は虚数の値を取る磁場などを用いた抽象的な記述にとどまっていた異常な臨界現象について、物理的な描像を明らかにした。 また、上記の非ユニタリー臨界現象の物理的実現を理論的に正当化する量子古典対応について、従来よりも定量的に精密な評価を行った。具体的には、量子系の虚時間自由度の分割数が有限でパラメータが特異性を示さないような条件下で量子系と古典系の分配関数や物理量などの誤差を定量的に評価し、そのスケーリングが従来知られていた一般論と整合することを明らかにした。更に、誤差の高次の項が無視できて、かつ誤差の支配的な項を一定値以下に抑えるために必要な分割数の下限も導出した。この成果によって、量子系について提案した非ユニタリー臨界現象の測定結果と古典系において数理的に予言されていた結果を高い精度で定量的に比較することが可能となった。 本研究成果は直接的には非ユニタリー臨界現象の典型例であるYang-Lee端特異性に関するものであるが、より一般の空間次元や普遍性クラスについても数理的な予言の意味を物理的な観点から明らかにする手掛かりとなることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画は、非ユニタリー臨界現象のミニマルモデルを実現する物理系を考案するとともに、相関関数などに関する異常なスケーリング則の微視的な物理的起源を解明する、というものだった。 具体的には、1点目として、非ユニタリー臨界現象のミニマルモデルであるYang-Lee端特異性を量子開放系において実験的に実現し相関関数等のスケーリングを観測する具体的な方法を考案する、ということを計画していた。本年度の研究成果としては、前述の通りに、環境自由度とみなされる補助系と相互作用するシステムについて、補助系の状態を測定した結果に基づいて条件づけられた時間発展に着目することによって、非ユニタリー臨界現象の典型例であるYang-Lee端特異性を実現できることを発見し、具体的なセットアップを提案した。 また、2点目としては、上記で得られた量子系について、相関関数などを量子開放系の固有状態を用いて評価し、距離の増加に伴って相関関数が増大するなどの異常なスケーリングが再現するか検証することを計画していた。また、これらの異常なスケーリングは、量子系の観点からは分配関数の評価に左右の固有状態が寄与することなど非エルミート系に特有の性質が影響していることが予想されるので、それらとの関係を調べることで異常なスケーリングの微視的な物理的起源を明らかにする、ということも計画していた。本年度の研究成果としては、前述の通りに、補助系が特定の条件を満たす確率に基づいて、異常な振る舞いを物理的に自然な形で理解できることも発見した。この成果によって、従来は虚数の値を取る磁場などを用いた抽象的な記述にとどまっていた異常な臨界現象について、物理的な描像を明らかにした。 以上の意味において、本年度は概ね当初の計画通りの成果が得られたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、測定により創発した量子古典対応に関する一般論を構築すると共に、非ユニタリー臨界現象が持つ普遍的性質を繰り込み群の観点から系統的に理解することを目指す。 具体的には、はじめに、測定により創発した量子古典対応に関する一般論を構築する。測定の反作用によって量子系に非ユニタリー性が導入されると、虚数の磁場を伴う古典系との間に等価性が創発する。特に古典系における物理量の期待値や相関関数は、量子系においては測定結果に関する条件付き期待値として実現される。このような量子測定に基づく対応関係について、一般の普遍性クラスや空間次元についての理論を構築する。 次に、非ユニタリー臨界現象が持つ普遍的性質を繰り込み群の観点から系統的に理解する。非ユニタリー臨界現象の普遍的性質について、多体系の長距離の振る舞いを系統的に抽出する繰り込み群や、それに伴うモデルパラメータのフローの固定点を記述する共形場理論の観点から系統的に理解する。更に、ユニタリー理論の繰り込み群のフローに基本的な制約を与える定理に反する非ユニタリー系のフローについて、どのような条件下でどの制約が破綻するかという対応関係の一般論を構築し、フローに関する基礎理論を確立する。
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Remarks |
研究報告書のプログラムウェブページへの掲載: 博士課程教育リーディングプログラム 統合物質科学リーダー養成プログラム MERIT 実践演習 (自発融合研究) 報告書、 「拡張PXP模型と量子多体スカーについての数理的研究」
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