2021 Fiscal Year Annual Research Report
ヘテロクロマチンを形成するヒストンメチル化酵素のin vitro解析
Project/Area Number |
21J11467
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大角 健 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | クロマチン / ヘテロクロマチン / ヒストンメチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
真核生物のゲノムDNAはクロマチン構造を形成している。クロマチンはその性質から、大きく二つの領域に分けられ、弛緩したユークロマチンと凝集したヘテロクロマチンに大別される。ヘテロクロマチンの内部にはトランスポゾンなどの危険な反復DNA配列が含まれており、これらの因子は異常な転移や組換えを引き起こさないように不活性化されている。ヘテロクロマチンに含まれるヒストンH3の9番目のリシンはメチル化(H3K9me)されており、このヒストン修飾が目印となり不活性なクロマチンの形成を促すことが知られている。ところが、このヒストン修飾を導入するヘテロクロマチン因子がどのように標的のクロマチンに結合し、ヘテロクロマチン形成を開始するのかは、不明なままである。ヒストンメチル化酵素SETDB1はショウジョウバエからヒトに至るまで高度に保存された遺伝子であり、高等真核生物の細胞活動に必須である。本研究は、ヘテロクロマチンの形成に必須なH3K9meの修飾酵素SETDB1とその補因子ATF7IPについて、生化学および構造生物学的解析を行い、ヘテロクロマチン形成メカニズムを解明することを目的としている。 2021年度はSETDB1とその補因子ATF7IPの精製を実施した。結果として、昆虫細胞発現系により、SETDB1およびATF7IPの精製に成功した。これら精製されたタンパク質を用いて、生化学的な結合アッセイを行い、基質であるヌクレオソームに対する結合条件を明らかにした。これらのタンパク質について、試料凍結のバッファー条件を検討した結果、クライオ電子顕微鏡での撮影に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は当初の計画に基づき、SETDB1とその補因子ATF7IPの精製を実施した。これらの因子の発現系として昆虫細胞であるSf9細胞を検討したところ、両因子の発現が観察された。これらの発現したタンパク質について、アフィニティータグを使用した精製に成功した。タンパク質精製が成功したことで、以降の生化学アッセイおよびクライオ電子顕微鏡による立体構造解析が可能となった。この発現系で精製されたタンパク質を用いて、生化学的な結合アッセイを行った。アッセイの結果、特定のヌクレオソームにおいてこれらの因子が効率的に結合することを明らかにした。この知見はSETDB1のクロマチンに対する結合様式を明らかにする上で重要な足がかりとなる。また、精製試料をクライオ電子顕微鏡で撮影するため、異なる複数のバッファー条件で凍結し、凍結グリッドを作製した。結果、タンパク質粒子の撮影に最適なバッファー条件を決定した。決定したバッファー条件下で、小スケールでの電子顕微鏡画像の撮影に成功した。これにより、本プロジェクトの中核であるSETDB1のクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析の準備が整ったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に引き続き、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析法によりSETDB1の立体構造解析を行う。より大規模な撮影データセットを取得することで、解析可能な粒子数を増加させる予定である。この際、2021年度に決定した凍結試料のバッファー条件を用いつつ、さらにグリッド材質についても検討することで、より電子顕微鏡観察に最適な氷の薄い凍結サンプルの作製を目指す。すでに撮影された粒子についても、単粒子解析用ソフトウェアの演算パラメーターを検討することで構造解析の最適化を図る。 上記の方策と並行して、補因子ATF7IPが、SETDB1のメチル化活性に及ぼす影響についても評価する。そのため、ATF7IPタンパク質について、大スケールでの発現および精製を行う。精製されたATF7IPとSETDB1を結合させ、ゲル濾過クロマトグラフィーによりSETDB1-ATF7IP複合体の精製を試みる。SETDB1-ATF7IP複合体とSETDB1単体とを比較し、ヌクレオソームに対する酵素活性や基質結合について評価する。またヌクレオソーム基質との結合については、再構成ヌクレオソームを用いたゲルシフトアッセイにより検討する。これらヌクレオソームやヒストンを用いたアッセイにより、SETDB1の活性化条件を決定する。
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