2021 Fiscal Year Annual Research Report
圧縮センシングを用いたビデオレート広帯域ラマン分光イメージング
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21J11484
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
滝沢 繁和 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | ラマン分光 / 分光イメージング / 圧縮センシング / 高速分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラマン散乱分光法は、無標識で測定試料の分子構造情報を知ることができるため、物性・生命科学等で広く用いられている。特に、時間領域で測定するフーリエ変換コヒーレント反ストークスラマン散乱(FT-CARS)分光法では、通常のラマン散乱に比べて高速な測定が可能となる。しかしながら、FT-CARS分光法をより動的な測定試料に適用するためには、さらなる高速化と高感度化が求められている。 本研究では、圧縮センシングと呼ばれる情報科学技術とFT-CARS分光法を組み合わせることで、FT-CARS分光装置の性能向上を目指している。圧縮センシングとは、信号の事前知識を活用することで通常必要とされるよりも少ない測定点数から正しい復元結果を復元する技術であり、測定点数を減らした分だけ測定を高速化することができる。この圧縮センシングをFT-CARS分光法に適用して測定を高速化するために、実験的にはリサジュー走査によって疎な測定を実現することを計画しており、本年度は、この疎な測定の数値シミュレーションを行なった。まず、一般にスパース再構成の復元精度が最も高くなるように各軸の走査周波数を決定したうえで、リサジュー走査による疎な測定をシミュレートし、少数の測定点から、全変動を正則化とする最適化問題を解くことでスペクトル画像を再構成した。シミュレーションの結果として、従来のラスター走査の場合に比べて10倍高速な測定が可能であることを確認できており、この成果に基づいて現在論文を執筆中である。 今後は、実際にFT-CARS顕微鏡を組み上げて実験的に高速な測定を実証し、生命科学応用へと繋げていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究では、圧縮センシングをFT-CARS分光法に適用することにより、分光イメージング計測を高速化できることを確認するための数値シミュレーションを行なった。まず、一般にスパース再構成の復元精度が最も高くなるように各軸の走査周波数を決定したうえで、リサジュー走査による疎な測定をシミュレートし、ラスター走査に比べて10分の1程度の少数の測定点から、スパース再構成によってスペクトル画像を再構成した。このスペクトル画像再構成の計算にはGPUを用いることで、(CPUで計算した場合に比べて)10倍以上高速な計算を実現している。さまざまな正則化項とそれらの組み合わせを試し、復元誤差の大きさを比較することで、最適な正則化項を決定した。さらに、正則化の強さを制御するハイパーパラメータの適切な値の探索も終了している。また、ノイズを加えた場合における画像復元のロバスト性についても、実用に耐えうるレベルの復元が可能であることを確認している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのコンピュータシミュレーションの研究によって、圧縮センシングをFT-CARS分光顕微鏡に適用することで十分に装置の性能が向上しうること確を認できている。そこで今年度は、実際にFT-CARS分光測定装置を組み立て、実験的にスペクトル画像取得速度の向上を実証する。まずは、液体サンプルやポリマービーズを用いた原理検証を行い、各走査の同期・制御が十分な精度で達成されていることを確かめるとともに、所望の画像取得速度におけるスペクトル画像が復元できることを確認する。そのうえで、達成された指紋領域ビデオレートラマン分光イメージングを生命現象の観察へ応用する。 分子を識別する能力が高い指紋領域とよばれる帯域の信号を取得でき、また非侵襲的に生体内小分子の振舞いを調べられるという強みを活かして、生細胞内脂質分子の網羅的解析を目指す。近年、脂質の多様性が生体の機能維持に重要であることが注目されているため、脂質液滴の種類ごとの時空間的局在を明らかにすることで、細胞の生理機能の解明につなげたい。
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