2021 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙実験と数理科学計算の融合による希薄燃焼限界近傍における特異火炎挙動の新理論
Project/Area Number |
21J11887
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
秋葉 貴輝 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 燃焼解析 / 希薄燃焼 / 高効率エネルギー利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在主要なエネルギー源として利用されている燃焼は,使用する燃料の量を大幅に削減できれば,排出される二酸化炭素を低減しつつ高効率な熱機関を実現できるため,環境への負荷を極端に減らしたエネルギー資源として利用できる.本研究では,燃料の量が極端に少ない条件において発現する特異な火炎現象の性質を明らかにし,その火炎を制御・応用することで実現される超高効率・低環境負荷のエネルギー利用法の提案に向け,必要となる手法と基礎理論の構築を目指す.本研究の目的は燃料希薄燃焼限界の限界近傍の火炎挙動の徹底解明に向け,希薄燃焼限界近傍において発現する特異な火炎挙動を調べることである.数年内に宇宙ステーションでの実験開始が予定されており,計測手段が限られる宇宙実験と組み合わせることで詳細な解析が可能な数値計算手法を検討する.本年度は,希薄条件など極限化した条件において計算負荷が膨大となる問題に量子コンピュータの計算資源を利用すべく,燃焼反応を計算する量子アルゴリズムを開発した.実用燃焼に向けた第一歩として,温度一定の条件のもとで進行する素反応を対象とした化学反応過程を評価するアルゴリズムを作成,既存のアルゴリズムと比較した.その結果,高い精度で既存のアルゴリズムによる結果を再現することを確認し,量子技術の成熟によって更なる高精度かつ高速に燃焼反応プロセスを評価できる可能性があることを示した.同時に,希薄燃焼限界近傍での火炎挙動調査を目的とした宇宙ステーションでの実験に向け,試作機を利用した性能検証試験を実施した.2020年度までに明らかになっていた懸念事項について,一つ一つ検証を重ね,打ち上げ用装置の使用を策定した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
量子コンピュータを利用した燃焼解析手法の開発 燃焼反応場において計算負荷が高い原因は大きく二つある.一つは変数の数が膨大であることである.これは,流れの変数に加えて,詳細な化学反応評価のために化学種の数だけ変数が増えるためである.もう一つは化学反応の進行速度が温度やそれぞれの化学反応によってさまざまな値を取り,現象の中に存在する特性時間の幅が非常に幅広いことである.今年度はこのうち,一つ目の変数が膨大であることに焦点を当て,大規模な変数を有する問題に対しても高速な演算が期待される量子コンピュータの利用可能性を検討した. 量子コンピュータは量子力学に基づく計算機であり,線形代数をベースとするため,本来線形な問題しか取り扱うことができない.一方で,燃焼反応場ではさまざまな非線型性が関わる.そのため,非線型な問題を線形化する手法が必要となる.そこでCarleman線形化に注目した.Calerman線形化は,非線型な影響を任意の次数で線形化する手法である.Carleman線形化のデメリットは元の問題に対して線形化後の問題のサイズが大きくなることであるが,これは量子コンピュータの計算性能で補うことができると考えられる.その結果,Carleman線形化と量子コンピュータはお互いの制約や課題を補い合う性質を有しているため,相性が良いと考えられる. 今年度は,温度一定の条件のもとで進行する化学反応の過程を評価するアルゴリズムを作成し,検証を行った.参照データと比較した結果,燃焼反応プロセスを評価できていることがわかった.また,線型化で考慮する次数を増加するほど,計算の精度が向上することも示され,量子技術の成熟によって,詳細な化学反応を考慮した燃焼反応の解析が実現できる可能性が示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の中で,温度一定の条件のもとで進行する化学反応の過程を評価するアルゴリズムを作成し,燃焼反応プロセスを評価できていることを確認,また,線型化で考慮する次数を増加するほど,計算の精度が向上することも示され,量子技術の成熟によって,詳細な化学反応を考慮した燃焼反応の解析が実現できる可能性が示唆された.今後はまず,温度一定の仮定を外し,温度変化も考慮した燃焼反応解析手法を検討する.温度変化の影響は,一般に燃焼反応の強い非線形性の原因となっていることが知られているため,非線形性の強い温度変化の影響をCarleman線型化によって評価できるようにすることで燃焼計算における高負荷な処理を量子コンピュータに任せる可能性が開ける.実装の第一歩としては,温度変化の影響に焦点を当てて検討を進めるため,拡散熱的モデルと呼ばれる簡易的な燃焼反応モデルを対象とする.拡散熱的モデルにおける実装の可能性と現実性を十分検証したのち,現実の燃焼現象を解析するため,解析に組み込むパラメータや条件の数を検討する.具体的には,流れの条件や素反応を含む詳細な化学反応機構の組み込みを検討する.組み込む変数の数と線型化時に検討する次数の増大は,計算負荷を指数関数的に増加させる恐れがあるため,実装時には計算負荷と古典コンピュータ上での実装可能性や,量子コンピュータの実機の開発状況を考慮しながら慎重に検討を進める.
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