2021 Fiscal Year Annual Research Report
レーザー冷却重元素を用いた電子の電気双極子能率探索
Project/Area Number |
21J12044
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小澤 直也 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | 反物質消失機構 / CP対称性の破れ / 永久電気双極子能率 / フランシウム / 表面中性化 / レーザー冷却 / 磁気光学トラップ / 光格子 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙の誕生以降、物質を構成する電子やクォークといった粒子と、それらの電気的性質が反転した反粒子が、対をなして生成することで、今日存在する物質が形成されてきたと考えられている。一方、粒子と反粒子は対をなして光に変わる対消滅という過程も存在するため、もしも粒子と反粒子が同じ量だけ作られてきたとすると、全て対消滅により失われてしまい物質が形成されなかったはずである。したがって、宇宙の進化の過程において粒子が反粒子よりも多く残るような非対称な過程が存在したことが期待される。本研究では、このような物質・反物質対称性の破れの起源の一つとなり得る時間反転対称性の破れを示す効果である、電子の永久電気双極子能率 (EDM) を高精度で測定することを目指す。 電子EDMは、電子を含む原子や分子のEDMを利用して間接的に測定することが出来る。特に、原子番号の重いアルカリ原子では電子の相対論的運動により電子EDMが大きく増幅され、最も重いアルカリ元素であるフランシウム (Fr) 原子の場合、電子EDMが800倍程度増幅されることが理論計算により示唆されている。本研究では、理化学研究所AVFサイクロトロンを用いたFr原子大強度生成およびレーザー冷却を用いることで、Fr原子のEDMを高精度で測定するための実験を推進している。 本年度はその中で、核融合反応によって生成したFrイオンを電子再結合により原子に変換するための中性化器、および磁場とレーザー光を用いて原子を低エネルギーに冷却し捕獲するための磁気光学トラップ (MOT) を開発し、Fr原子のMOTを目指した実験を行った。各要素の効率が低いためFr原子のMOTは観測されていないものの、Frと化学的性質の類似したルビジウム (Rb) では装置の原理実証を完了した。さらに、MOTに続くレーザー冷却手法である光格子のための装置開発を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Fr原子を用いたEDM測定に向けて、基幹装置である中性化器およびMOTの導入が完了し、Fr原子のMOT観測の準備が整った。また、4回にわたる加速器を用いた実験やRb原子を用いたオフライン実験を通して、FrのMOT実現のために必要な課題を明らかにしてきており、今後の効率向上に向けた指針を定めることができている。当研究は理化学研究所の加速器施設を拠点に実施しているため、新型コロナウイルス対策の入構制限や活動制限が引き続き厳しく運用されている。そのために装置開発の機会も限られる中、計画的かつ効率的な開発により短期間で必要な装置を導入することができた。一方、MOTが実現しない限り光格子の導入は困難であるため、当初今年度中に光格子の導入も実施する予定であったが、実際にはオフラインでの開発を着手した段階である。 Fr原子生成実験に際しては、加速器を利用してFrイオンを生成するための表面電離イオン源、中性化器、MOTを統合した制御系の開発も行い、イタリア・フェラーラ大学と継続的に共同研究を行っているRF質量フィルター装置の導入も併せて行っており、本研究の前から開発してきたFr生成機構の高度化も推進している。
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Strategy for Future Research Activity |
Fr原子のMOT観測に向けて、装置を構成する各要素の高度化を図る。具体的には、MOT用の真空槽内部に吸着防止コーティング付きのセルを導入し、原子捕獲効率を高めるほか、中性化器の表面状態清浄化手法を改善し、中性化効率も向上する。 さらに、MOTの実現に先立ってRb原子のための光格子トラップの開発を推進する。光格子の実現には大強度レーザー光が必要であるため、そのための光学系および安全対策の実装を進め、当研究室初となる光格子の実現を目指す。また、放射線環境下における大強度レーザー光生成のための準備として、メンテナンス可能な自作のファイバー増幅器の開発も推進する。Rb原子の光格子トラップおよびファイバー増幅器についての数値シミュレーションを先行して推進しており、開発した各要素との比較を実施し、その性能評価を実施する。
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Remarks |
東京大学理学部オープンキャンパスの一環として行われた学生講演にて、本研究について高校生や一般聴衆に紹介した。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] Development of novel detection system for francium ions extracted from online surface ionizer2021
Author(s)
N. Ozawa, H. Nagahama, T. Hayamizu, K. Nakamura, M. Sato, S. Nagase, Y. Kotaka, K. Kamakura, K.S. Tanaka, M. Ohtsuka, T. Aoki, Y. Ichikawa, A. Takamine, H. Haba, H. Ueno, and Y. Sakemi
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Journal Title
RIKEN Accelerator Progress Report
Volume: 54
Pages: 117
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Radiation resistivity test of an optical fiber for laser cooling of francium atoms2021
Author(s)
T. Hayamizu, K. Nakamura, T. Aoki, Y. Kotaka, H. Nagahama, S. Nagase, M. Ohtsuka, N. Ozawa, M. Sato, A. Takamine, K.S. Tanaka, H. Haba, and Y. Sakemi
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Journal Title
RIKEN Accelerator Progress Report
Volume: 54
Pages: 116
Peer Reviewed / Open Access
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