2021 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー変換効率を可能とするべん毛モーター回転軸と軸受の構造と機能の解明
Project/Area Number |
21J12128
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山口 智子 大阪大学, 生命機能研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | クライオ電子顕微鏡 / 構造解析 / べん毛モーター / サルモネラ / LPリング / ロッド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、バクテリアべん毛の軸受であるLPリングと回転軸であるロッドの相互作用を原子レベルで解明し、エネルギー散逸を最小化する仕組みとLPリングの自己構築のメカニズムを理解することである。多くのバクテリアは、べん毛と呼ばれる器官を用いて遊泳する。べん毛は、モーターとして働く基部体、ユニバーサルジョイントとして働くフック、スクリューの役割をもつ繊維の3つの部分構造から構成される。べん毛はほぼ100%に及ぶ高いエネルギー伝達効率を誇る高性能回転モーターである上に、厳密に制御された自己構築過程により形成されるため、べん毛モーターの研究はドラッグデリバリーや感染症対策などの医薬技術のほか、工学技術への応用を期待できる。我々はサルモネラの軸と軸受けを含む基部体複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡の単粒子構造解析を用いて解析することで、LPリングの分子構造を3.5オングストロームの分解能で解析した。この構造情報から、1)特徴的な長いβストランドによって網籠状に裏打ちされた3層のバレル構造がLリングの構造を頑丈にしていること、2)LPリングが静電引力と静電反発力をもちいて、エネルギー散逸を最小化していることを発見した。また遺伝解析的手法をもちいて3)Pリング内側表面の正電荷は、負電荷に帯電したロッド表面へ効率的に集合することを可能にすることを発見した。これらの結果は今年度Nature communicationsに掲載されたほか、4つの学会で発表し、第67回日本生化学会近畿支部例会では優秀発表賞、第59回日本生物物理学会年会では学生発表賞を受賞した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
LPリングはバクテリアのペプチドグリカン(Pリング)と細胞外膜(Lリング)に結合し、ロッドを囲むように存在している。LPリングの形成において、ペリプラズム領域に分泌されたFlgIがロッドに直接結合する形でPリングを形成し、これを土台にFlgHがLリングを構築すると、Pリングがロッドから離れLPリング複合体が軸受として機能するようになると考えられている。しかし、この詳細なメカニズムはわかっていない。我々はこれまでの研究でPリング内側表面の正電荷がロッド周りへの自己集合に重要であることを突き止めたが、Pリング形成過程のロッドとPリングの相互作用はまだ確認できていない。そこで我々はPリングがロッドに結合した状態の構造を原子レベルで解析することにより、Pリングの正電荷が実際に自己構築過程において重要であるかを確認し、LPリング構築のメカニズムを明らかにすることを試みている。解析にはロッドが本来の長さを超えて重合する「ポリロッド」を形成するサルモネラの変異株を用いる。いくつかのポリロッド変異株では、ロッドにPリングが数多く結合した様子が観測されており、ポリロッドとPリングの複合体を変異株から直接精製し、クライオ電子顕微鏡による単粒子構造解析を行うことで、ロッドとPリングの結合部位を特定する。既に最適化されている野生株べん毛基部体の精製手法を基に調整を行った結果、我々はポリロッドの精製に成功した。この精製サンプルを凍結し、CRYO ARM 300 (JEOL) とK3 detector camera(Gatan)を用いて撮影を行い、単粒子像構造解析によるポリロッドとPリング複合体の三次元再構成および原子モデルの作成をおこなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はLPリングのロッド周りの自己構築過程のメカニズムについて、立体構造解析を用いいて解析する。 ロッドの表面電化はAsp-109、Asp-154、Glu-203によって主に負に帯電していることが知られており、静電的な相互作用がロッドとLPリングの相互作用に重要な役割を果たしていると考えられる。Pリングの内側表面にはFlgIタンパク質のLys-63、Lys-95によって正に帯電している領域があり、その保存性の高さからPリングの形成や機能に重要な役割を果たすと推測される。このFlgIのLys-63およびLys-95に分子遺伝学的操作で変異を加え、LPリングの構築や菌体の遊泳への影響を調べたところ、Lys-63およびLys-95の正電荷を打ち消すように負電荷または中性電荷の変異を加えると、LPリングの構築が阻害されることが確認された(Yamaguchi and Makino et al., 2021, Nat.Commns)。このことから、ロッド表面の負電荷とPリング内側表面の正電荷の相互作用がリングの構築に重要であると考えられる。今後は現在までの進行状況で表記したポリロッドとPリングの複合体の構造解析を進め、立体構造を明らかにすることでロッドとPリングの相互作用部位を確認する。その後アミノ酸残基に分子遺伝学的操作で変異を加えPリングの構築に変化が生じるかを確認し、相互作用部位を特定する。
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Research Products
(6 results)