2021 Fiscal Year Annual Research Report
アリヅカムシ亜科のもつ小顎肢の形態的多様性と機能解明
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21J12132
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
井上 翔太 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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Keywords | アリヅカムシ亜科 / 小顎肢 / 系統学 / Pselaphitae / Tyrini / Pseudophanias / 昆虫分類学 / 摂食行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は野外調査と分類学的研究、系統学的研究を重点的に行った。研究対象であるPselaphitae上族には日本では収集の難しい種も存在したが、本年度行った野外調査で日本に産するPselaphitae上族ほぼ全ての属のDNAサンプルを収集することができ、サンプル収集では当初の予定以上に成果を得ることができた。分類学的研究では、ミャンマーからツムガタアリヅカムシ属2新種を記載した。また、日本からコケアリヅカムシ属4未記載種、Tyrodes属の1日本初記録種、1未記載種を確認した。系統学的研究では、5族19属38種についてCOI・16SrRNA・28srRNAを対象にしたDNA実験を行い、来年度に行う系統解析に向けて計画通りにデータを得ることができた。予備的に行った系統解析の結果では、Pselaphitae上族が2つのクレードからなる多系統群という結果が得られ、これは先行研究の結果と一致している。また、生態学的研究では顕微鏡下の観察においてPselaphitae上族3族7属8種の摂食行動を観察することができた。これら一連の摂食行動様式は小顎肢の形態に関わらず種間で一致しており、多系統群であるPselaphitae上族を形成する2つの主要クレードのうちの一つに位置することが分かった。来年度はビデオカメラを用いて、5属5種程度に関して一連の摂食行動の撮影を予定している。SEMを用いて小顎肢を観察したところ、属ごとに表面に備わる毛の形状が異なることが分かった。 また、当初の計画にはなかったが、3族5属5種の幼虫サンプルを収集することができ、このうち2族に関しては族レベルで世界初の発見だった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野外調査によるDNAサンプルの収集を順調に進めることができ、Pselaphitae上族の系統解析に必要なサンプルのうち日本で収集可能なサンプルについてはHybocephalini族2属、Pselaphini族tyraphus属以外を収集できた。また分子実験に関しても、解析に用いる18srRNA, wingless領域以外の領域の配列決定は済んでおり、順調に進んでいる。行動観察においては、摂食行動を3族7属8種で観察することができた。得られた一連の摂食行動様式は観察できた8種で一致しており、「小顎肢の形態ごとに摂食行動様式が異なる」という仮説は支持されなかった。先行研究と、予備的な系統解析の結果から、観察できた8種、多系統群であるPselaphitae上族を形成する2つの主要クレードのうちの一つに位置することが分かった。先行研究から、もう片方のクレードに位置する種の摂食行動が異なることが報告されているため、アリヅカムシ亜科における摂食行動は系統で一致している可能性がある。小顎肢の形態の観察もSEMを用いておおむね順調に進んでいる。 分類学的研究に関しては進捗がやや遅れている。新型コロナウイルスの影響により海外への調査が制限され、欧州の博物館に収蔵されているタイプ標本の検討が全くできていない。そのため、東南アジアに分布するPselaphitae上族の分類の進捗が遅れている。 予想外の成果として、飼育中のアリヅカムシ複数種から幼虫が得られたことであり、うち2族に関しては族レベルで世界初の発見であることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度もPselaphitae上族の多様性解明を目指す。分類学的研究では、特にPseudophanias属、Tyrus属の分類学的再検討に注力したい。また、昨年度得られた幼虫期形態の記載も併せて行いたいと考えている。系統学的研究ではDNA実験の済んでいない領域の配列決定をなるべく早期に終わらせ、9月以降解析ができる準備を整えたいと考えている。しかしながら、予備的な系統解析からPselaphitae上族の系統を解明するには日本で得られるサンプルだけでは不十分である可能性があるため、海外での野外調査(カメルーン、ベトナム)を計画中である。国内においては、昨年度に収集できなかったHybocephalini族、Pselaphini族Tyraphus属のDNAサンプルを収集する必要があるため、東京都伊豆大島、沖縄県沖縄島にて野外調査を計画している。形態学的研究に関しては、昨年度観察のできなかった分類群に関してSEMを用いた観察を行い、昨年度と今年度のデータを用いて、小顎肢に備わる毛の分類・同定を行い、小顎肢表面に備わる毛の機能を推定する。 行動観察に関しては、昨年度観察することのできた種に関してビデオカメラを用いた撮影を行い、より詳細な行動の観察・解析を行う予定である。得られた成果は、年度内に論文にまとめて投稿する。
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